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お試し期間

スマートフォンに電話がかかってきた。 画面を見ると千紘先輩で「はーい」と電話に出る。 「生徒会室の方見て!」 言われて顔を上げ、生徒会室の方に目を向けると、千紘先輩と赤目先輩に井上先輩が立っていて、俺達をニヤニヤと見ていた。 「……寒沢先輩」 「……最悪」 先輩も同じように生徒会室の方を見て額を抑える。 深い深い溜息を吐いて、俺からスマートフォンを奪って電話を切った。 「あ、なんで切るん」 「面倒だから。あいつら他人の恋愛が大好きなんだよ。」 スマートフォンを返されて、ポケットに入れると先輩が立ち上がったから慌てて俺も立ち上がる。 「先輩!どこ行くの!」 「生徒会室に戻る。荷物持って帰る」 「え、何の仕事もしてないのに?」 「うん」 「そんなんいいの!?」 先輩は自由だ。いつもそう。 でも俺はそんな所も好きなので、ただ後をついていく。 「先輩!」 「何?」 勝手に手を繋いでも振り払われない。 そのまま生徒会室に行くと、3人の先輩は相変わらずニヤニヤしていた。 「あーうざい。」 寒沢先輩はそう言って荷物を手に取る。 赤目先輩はそんな先輩を睨みつけた。 「ね、ねえ寒沢先輩、やっぱりちょっとくらい何かしよう?」 「……何するんだよ」 「ほら、俺も手伝うから……何かお手伝い……ね?」 お願いすると、渋々ソファーに座った先輩の隣に腰掛け、千紘先輩から預かった資料を寒沢先輩に渡す。 「次の生徒会長、誰にする?」 そんな話題が唐突に投げられて、邪魔をしないように俺は黙って席を立つ。 「どこ行くんだよ」 それを寒沢先輩に止められてちょっと困ってしまう。 メンバーを決めるのは俺じゃないし、所詮俺はオメガだからアルファよりできることは少ない。 せめて次の生徒会のメンバーが嫌な人じゃないといいなとだけ思っている。 それなのに。 「あー、飲み物入れようかなって。皆さんの」 「そんなのいい。次の生徒会にはお前もいるんだ。お前も意見を出した方がいい。」 「えー、でもほら、俺はオメガやから、やっぱり生徒会長はアルファの方がいいし、選ばれたその人が中心で考えた方がいいと思う。」 「いいから座れ」 腕を強い力で掴まれ引かれソファーに座り直す。 俺のせいで止まっていた話が再開され、皆さんの言葉に耳を傾けた。

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