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お試し期間
そのまま七時まで眠ってしまい、慌てて寮食を食べた。
部屋に戻り課題をしようと机に向かったタイミングで、寒沢先輩から電話がかかって来て、出るかどうか悩む。
「……あ、切れた。」
着信が切れて、不在着信の通知が画面に出る。
ホッ、としているとまた電話がかかってきて、今度は慌てて出た。
「はいっ!」
「無視しただろ」
「あー……あはは」
バレてる。笑って言葉を流すと溜息が聞こえてきた。
「生徒会の事だけど」
「はい」
「お前のこと推薦したの、迷惑だったか。」
「え……」
先輩はもしかして、ずっとそんな事を気にしてた?
それなら安心してほしい。
「迷惑じゃないです。……でも、俺はやっぱり……」
「性別で悩んでる?」
「……はい。オメガが生徒会長なんて、今まではなかった問題も出てくると思うし」
「……出て来い。」
「は?」
急に何を言ってるんやこの人は。
「今寮の前にいる。出て来い」
「え、えー?……わかりました」
電話越しでイラッとしてるような雰囲気醸し出してくるのやめてほしい。
何言われても断られへんくなってしまうから。
電話を繋げたまま寮の外に出ると先輩が居て、俺を見つけると腕を掴まれ近くのベンチまで引っ張られた。
そこに腰を下ろして、暫く沈黙が流れる。
それに耐えきれず「あのー……」と声を出すと、「何だ」と返事をされ、いやいや、何だやないやろと心の中でツッコミを入れる。
「何で呼んだんですか?」
「……今はお試し期間で、お前は一応俺の恋人だ。」
「はぁ」
「恋人が悩んでたら、一緒に考えるもんなんだろ。」
バッと顔を上げて先輩を見ると仏頂面をしていて、多分これは照れ隠しやなと勝手に理解する。
「俺の為?」
「お前の為っていうか……俺達の為っていうか……。そんなことはどうでもいいだろ。」
突然大きな手が俺の顔を覆ってきた。
「見るな」
じっと見ていたから、恥ずかしかったんやと思う。
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