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お試し期間

ふぅ、と息を吐いて地面を見る。 「俺、嬉しかった。先輩が俺でいいって言ってくれたの」 嬉しい。なのに応えられない。 「やってみたいです、本当は。でもやっぱり俺じゃ、務まらないです。」 「……お前はもっと自分に自信があって、オメガでも何でもできるって思ってるタイプだと思ってた。」 「……期待外れでごめんなさい」 「そうじゃなくて、お前は意外と人目を気にするんだな。その癖にこんなちゃらんぽらんな俺に付き合ってくれって言う。」 「そ、それは、好きだからで……。」 何度も何度も伝えてる言葉。 どうやらまだまだ足りないらしい。 「別に、多分、俺がオメガじゃなくても先輩の事が好きやったと思う。自分で決めた道を堂々と歩いてる姿とか、凄い尊敬するから。」 「……」 「俺もそうしてみたいなって思う」 「すればいいだろ」 肩をぎゅっと掴まれてビクッと震える。 声がいつもより少し低い。 「やれ。堂々としろ」 「……無理」 「やれって言ってるんだよ。お前の意見は聞いてねえ」 それでも首を左右に振ると、手が離れて先輩は立ち上がった。 もしかしたら、怒らせたのかも。 「帰る」 「……ごめんなさい」 俺が弱虫なばかりに、先輩を怒らせてしまってる。 先輩を尊敬しているのに、どうしても先輩と同じようにはなれない。 俺だってオメガやなかったら、もしかしたら同じように出来ていたかもしれんのに。 先輩の姿が見えなくなって、漸く寮に入った。 部屋に戻り、一人になって視界がぼんやりと歪んだ。 頬に温いものが伝い、それを腕でゴシゴシ拭う。 明日、先輩に謝ろう。 それで、もう一回ちゃんと生徒会長の事をお断りして、お試し期間なんて言った巫山戯た期間も終わらせよう。 ああもう、ぶっきらぼうに見えて本当は俺に付き合ってくれる優しい人なのに、それなのに怒らせてしまった。 「……好きなのに」 貴方を想えば、泣いてしまうくらい好きなのに。

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