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ゆるすひと
午後から大学に出てきて、講義室の真ん中辺りの席で項垂れる。
不完全燃焼だ。帰ったら話し合って上手くいけばそのままベッドに……、いや、上手くいくのか?
「おはよう赤目!」
「……おはよ」
うるさいくらいの声で挨拶をしながら、強く背中を叩いてくるのは同じ学年学科の一柳 。
金色の髪が眩しくて目を閉じる。
「元気ないじゃん。どうした?」
「……うん」
「うんじゃねえよ。言えよ」
「……朝からしようとしたんだ。俺は子供が欲しくてな……ゴムをつけないでやろうとしたら止められて、萎えて……」
「お前馬鹿なのか?」
「馬鹿なんだろうな」
俯くと、隣から溜息が聞こえてきた。
「アルファってすげえな。オメガの許可がないと何もできねえの?」
「ああ。体に何らかの変化が出るんだ。今朝は萎えるっていう現象。触るなって言われたら本当その通りになるし……」
「めちゃくちゃ面白いな。」
笑う一柳に何も感じない。
イライラすることもない。
俺は子供が欲しいけど、千紘は違うのだろうか。
そういえば最近好きって言われてない。もしかして俺のことが嫌になったのだろうか。
「え、赤目……?」
「う……何だ……」
「ええ……泣いてんの?ごめんって。そんなにショック受けてるとは思わなくて……」
「泣いてない……」
ただ泣きそうなだけだ。
そうだ。子供の事なら高良と楠本さんに相談すればいいのでは。
思い立ったが吉日だ。慌てて高良に電話をかける。
「はいはーい。久しぶりだね会長。どうしたの?」
「相談がある」
「え、相談?ていうかなんか声おかしくない?泣いてるの?」
「泣いてない」
鼻をずずっと啜る。
少し困惑してる様子の高良に「楠本さんとも話したい」と言うと「ちょっと!」と突然強い声が聞こえてくる。
「楠本さんじゃないから!もう高良旭陽なんですぅ!」
「……悪い。旭陽さんにも会わせて欲しい」
「誰の許可を得て旭陽の名前を呼んでるの!?」
「……お前は本当に面倒臭いな」
「あー、そんなこと言っていいの?旭陽にも会いたいんでしょ?」
ぐぬぬ……と堪えて「すまん」と謝れば、ケラケラと笑われる。くそ。悔しい。
「いいよ。丁度今日は早く仕事が終わりそうなんだけどどう?……あ、会長車でしょ?会社まで迎えに来てよ」
「わかった」
「じゃあ、また連絡するよ。」
電話を切って肩から力を抜く。
一柳は隣でもう眠っていた。
千紘に今日は遅くなるとメッセージを送る。
教授がやってきて講義が始まった。
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