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ゆるすひと
全ての講義を受けて、高良からの連絡を待つ。
五時頃にメッセージが来て、半には終わるとの事だったから丁度いいだろうと思い高良の会社に向かう。
少し遠回りをしながら車を走らせ、高いビルの前に行くと高良がスーツ姿で立っていた。
俺に気付いて駆け寄ってくる。
「お疲れ様」
「会長もね。」
助手席に乗った高良がシートベルトを締めたのを確認してアクセルを踏んだ。
「それで、相談ってどうしたの?まあ、大体検討はついてるけど。」
「そうなのか?」
「うん。千紘ちゃんに相談しないってことは、千紘ちゃん関係でしょ?幼馴染なのに高梨じゃなくて俺をわざわざ選んだり、旭陽にも会わせろって言うから子供の事じゃないかなぁって。どう?合ってる?」
「合ってる」
高良の家には何度か千紘と一緒にお邪魔したことがある。
迷うことなく家に着き、車を停めさせてもらって今日は初めて一人でそこに上がった。
「あ、赤目君久しぶり。いらっしゃい」
「あー!いっせーだ!」
旭陽さんが玄関まで出迎えてくれる。その後ろからバタバタと足音を立てて夕陽ちゃんがやって来た。
「こんばんは。急にごめんなさい」
「いいよいいよ。ゆっくりしてって。」
人見知りもせずに俺に飛びついてきた夕陽ちゃんを抱き留める。
隣から高良の嫉妬の視線がすごいけれど無視だ。
夕陽ちゃんを抱っこしたままリビングまで移動して、夕陽ちゃんに案内されるがままソファーに座る。
「ご飯食べて行くやんね?食べられへん物とかある?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「……赤目君、固すぎるわ。もっと気楽にしてよ。」
「あー……すみません。」
「……俺も赤目君って呼んでるの、すごく距離あるよな。……偉成君って呼んでもいい?」
「勿論です」
旭陽さんは口角を上げて笑う。
そんな旭陽さんの後ろから、高良がやって来て勢いよく抱きしめた。
「うわっ!びっくりした!」
「なーに会長とイチャイチャしてるの!」
「してないよ。固いし、名前で呼ばせてもらっていいか聞いただけ。」
服をクイクイ引っ張られ、視線を下げる。
夕陽ちゃんは俺を見て首を傾げた。
「ちひろは?」
「千紘はお家にいるよ」
「いっせーと一緒じゃないの?」
「うん。今日はね」
可愛い。ぷくぷくとした頬っぺにツンツンと触れると、夕陽ちゃんも俺の頬を小さい指でツンツンとつついてくる。
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