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ゆるすひと

「多分、千紘も同じこと思ってるよ。帰ったら二人でちゃんと話し合って、千紘の意見を聞いてあげて。正直……俺が夕陽を妊娠した時、すごくしんどかったから。」 「はい」 「一人になると悲しくなるし、上手く感情のコントロールもできやんかったんよ。悠介がおったから変な事考えずに済んだんやと思う。」 手を洗って、俺の肩をポンッと軽く叩く。 「オメガはそういう時、番に支えてもらわないとあかんねん。その覚悟はある?」 「はい。あります」 「……そう。じゃあその気持ちもちゃんと伝えてあげてね。安心できるから。」 完成した料理をテーブルに並べていく。 高良の隣に夕陽ちゃんが座り、俺は旭陽さんの隣に腰を下ろす。 「いただきます」 手を合わせて箸を持つ。 「それで会長は旭陽と話できた?」 「ああ。千紘とちゃんと話し合おうと思う」 高良は二度頷いて、夕陽ちゃんの口の周りを優しく拭った。 「んーっ!パパ、もっと優しく!」 「ごめんね」 口をいっぱいにして食べる夕陽ちゃんが可愛い。 今度はちゃんと、何か美味しいものを持ってこよう。 「偉成君、ちゃんと食べてる?ほら、これ取ったげる。」 「あ、ありがとうございます」 幸せな空間に混ぜてもらって、お腹もいっぱいになったあと、夕陽ちゃんと少し遊んでから家に帰ることに。 「またいつでもおいでね」 「はい」 「いっせー帰るの?」 「帰るよ」 旭陽さんと夕陽ちゃんが玄関先で手を振ってくれる。それに手を振り返した。 高良は俺の肩に手をおいてふんっと鼻を鳴らす。 「千紘ちゃんと喧嘩したらいつでもおいでね」 「ありがとう」 「喧嘩しなくてもだからね。あ、今度は二人で」 「わかった」 車に乗り、高良にも軽く手を振る。 そうして車を走らせ、家に着く頃には夜の十時になっていた。

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