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ゆるすひと
家に帰りリビングに行くと、丁度千紘が風呂から上がって髪を乾かす所だった。
「あ、おかえり」
「ただいま」
「お風呂入っておいでよ。」
「うん」
着替えを持って脱衣所で服を脱ぐ。
風呂場に足を入れて、シャワーを浴び髪も体も洗ってからお湯に浸かる。
風呂から上がったら、千紘と話をして……ああ、いや、もう千紘は寝たいかもしれないよな。それなら明日の方がいいか……。
気持ちよくてあくびが溢れる。
風呂から出て体を拭き、服を着てリビングに行く。
「あ、出てきた。ここ座って」
「何?」
言われた通りにソファーに座る千紘の足の間に座ればドライヤーで髪を乾かしてくれる。おかげで眠気が襲ってきて、目を開けてられない。
「偉成」
「……ん」
微睡みの中で返事をすると、ドライヤーが切れて頭を抱えられる。なんだこの体勢は。
「あー……千紘……?」
「今朝はごめんね」
「え」
「偉成が子供ほしいっていうのわかってるんだけど、妊娠したら体に変化があるでしょ?それで偉成に嫌われたら嫌だし、子供が産まれてからもちゃんと育てられるか……それも不安で……」
「千紘、ちょっと、離して欲しい」
「あ……ごめん」
解放されて、千紘と向き直る。
不安の匂いが強く香ってきた。
「俺は千紘を嫌いにならないよ。それは何があっても変わらない。」
「わからないよ。俺が歳をとって綺麗じゃなくなったら嫌になるかも」
「千紘が歳をとるってことは俺だってそうなるんだぞ。千紘は俺が綺麗じゃないと嫌なのか?」
「嫌じゃない」
「俺もだよ。嫌じゃない」
頬を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
「ちゃんと育てられるかどうかは、それは未来のことだから、誰にも分からないと思う。でも皆、ちゃんと育てたいと思ってるんだ。それに育てる責任がある。」
「……できると思う?」
「うん。もし自分達の育て方が合ってるのかわからなくなったら、母さん達に相談すればいい。俺達を育ててくれた大先輩だからな。」
「うん。そうだね」
「千紘の気持ちは?子供欲しい?」
千紘は大きく一度頷いて、また俺の頭をぐっと抱く。
「偉成、俺ね、次の発情期で子供欲しい」
「嬉しい」
千紘の背中に手を回す。
不安の匂いは薄れ、代わりに香ってきたのは嬉しいという感情のそれ。
「できるかな、赤ちゃん。」
「できたらいいな」
顔を上げるとキスをされて、そのまま床に押し倒される。
「今朝できなかってエッチしませんか?」
そう言って俺の腹に跨る千紘。
太腿を撫でるとくすくす笑って背中を屈め、またキスをする。
そうしてその日の夜は、甘い甘いものになった。
ゆるすひと 了
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