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甘い匂い 寒沢side
もう少しで最終登校日がやってくる。
クラスメイトは休みがやってくることにはしゃいでは、でも最後なんだなと寂しそうにしていて忙しそうだ。
「あー!もうあと少しで俺は偉成とずっと一緒にいられる!」
「いいなぁ。でも赤目先輩は大学生でしょ?」
「……そうなの。どうしよう」
松舞と井上がそんな会話をしている。
赤目はまだここには来ていない。
「匡遅いなぁ。職員室に寄ってから来るって言ってたけど……」
「宮間も来ねえ」
いつもならとっくの前に俺の隣に座ってるくらいの時間。
電話を掛けようとした時、生徒会室のドアが開いた。
瞬間、香ってくる甘い匂い。
「うっ……」
俺と井上は同時に鼻を押え、今入ってきた赤目を見る。その背中には顔を真っ赤に染めた宮間が背負われていた。
「寒沢、宮間が発情期を起こした。薬は打ったけど、とにかくお前に会いたいって言うから連れて来たぞ。」
「っ、馬鹿かお前は!それでもまずはオメガの部屋に入れるべきだろうが!そんな匂い撒き散らしてここまで来やがったのか!?」
赤目は番持ちだから番以外のフェロモンは効かないし、松舞はオメガだから関係ない。
でも俺と井上は違う。体が熱くなって、慌てて薬を打った。
「仕方ないだろ。お前に会いたいって聞かないんだから」
「はぁー……」
深呼吸を繰り返し、宮間の傍に寄る。
唇を噛んで、それから「おい」と声を掛けた。
「ん……寒沢、先輩ぃ……」
「……赤目、仮眠室貸してくれ。そこで休ませて落ち着いたらあの建物に連れて帰る」
「わかった」
松舞は慌てた様子で仮眠室に水やタオルを用意してくれた。
赤目がベッドまで宮間を運び、部屋を出て行ってから、ベッドの縁に腰掛けた。
「宮間」
「ん……ご、ごめん、なさい……っ」
「いや、こうなった時のこと話してなかったしな……」
学校で発情が起こったら、まずはオメガの部屋に行くのか、それ専用の建物に行くのか、俺のところに来るか、何も話していなかった。
「熱が治まったらあの建物に行くぞ」
「ん……番じゃない、アルファとオメガの……?」
「ああ。寮に帰ってもいいけど……番になってからの方が安心だろ。」
宮間の熱い手が俺の手に触れる。
ぎゅっと握ってやると嬉しそうに笑う。汗ばんだ額に張り付いた前髪を退けてやった。
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