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甘い匂い

*** 一週間が過ぎ、腕の中で気持ちよさそうに眠る純の寝顔をぼんやり眺める。 番になったのか。俺が、純と。 思わず強く抱きしめると、呻き声が聞こえて慌てて腕を離す。 薄く目を開けた純に「何」と言われて首を左右に振った。 「風呂入るか?」 「……後で」 「じゃあいつでも入れるようにお湯貯めてくる」 「あ、あかん。ここおって」 ベッドから出ようとすると手を掴まれた。純が後でいいって言うなら……と思いベッドに戻る。 「……そういえばお前、一回も俺の名前呼ばなかったな。」 「え」 「ずっと先輩って呼んでた。」 「先輩やし。間違いではないやろ?」 「お前まさか……俺の名前知らねえとかないよな?」 純が笑顔で固まる。 まじか。お前それ本気か。 本当に俺の名前知らないのか。 「し、知ってるし!」 「じゃあ呼んでみろよ」 「えー……えっと、えー……」 「ほら知らねえんじゃねえかよ!」 グリグリと純の頭を押さえつける。 「やめてよ!やーめーて!おい、やめろ!」 手を叩き落とされる。 頭を抱えるように抱きしめられて、純の胸に顔がくっついた。 「幸鷹(ゆきたか)」 ドキッとして、今度は俺が固まる番だった。 「あんたの名前、幸鷹でしょ。知ってる。今更恥ずかしくてそう簡単に呼べへんかったのっ!」 「……可愛いな」 そのまま間の前にある胸にキスをすると「ひゃっ!」といって俺の顔を離す。 「もう一回」 「はぁ?」 「名前もう一回」 「え……ゆ、幸鷹……」 ムラっとして噛み付くようにキスをする。 俺を止めようとする手を片手で押さえる。 「ちょ、むり、まって、幸鷹……っ」 「あと一回だけ」 「むり、もう……お尻痛い……お願い……」 うるうるした目が余計に煽っているってこの馬鹿は気付いてないのか。 ぐっと堪えて隣に寝転がる。 「尻痛いって何?穴?」 「……デリカシーの欠けらも無いな」 「ついさっきまでそこに入っていたもんで」 ムスッとして俺の腕に額をつけ「ちょっと寝る」と言った純に布団をかけ直す。 明日ならまた抱かせてくれるだろうか。 そんなことを思いながら純を抱きしめて俺も少し眠った。 甘い匂い 了

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