817 / 876

好奇心 優一side

俺は彼が怒ったところを見た事がない。 気分がハイになっているところも、逆に深く落ち込んでいるところも。 「君は本当に人間なんだろうか。」 「……本気でそう思ってるなら、貴方相当な馬鹿ですね?」 「……ごめんなさい」 疑って聞いてみたら呆れた顔をされたので、謝って黙った。 だっておかしい。こんなにも喜怒哀楽の薄い人間を俺は見た事がない。 俺の家族は皆そうだった。俺がオメガだったからか、いつも怒っていたか呆れて落ち込んでいたか……そんな記憶しかない。 「彰仁君」 夜も遅い時間。未だ仕事をしている彼の背中にぴとっとくっつく。 パソコンに目を向けたまま、ポンポンと頭を撫で「後でね」と言われてしまい、年上としての威厳は皆無だ。元々そんなものは無いけれど。 でも、そこでちょっとした好奇心に駆られた。どきどきしながら彼の首に腕を回して強く抱き着く。 「どうしたんですか、優一さん。」 「……ふふ」 鬱陶しいと剥がすことなく好きにさせてくれる彰仁君。首に回していた腕を動かし、今度は両手で彼の目元を覆う。 さすがに仕事の邪魔をすれば彼だって怒ると思うから。 「優一さん?」 「……」 「……何がしたいの」 俺の手の上から、手を包んだ彰仁君は顔だけ振り返って苦笑する。 「どうしたんですか」 「……」 「おーい。何か怒ってる?」 彰仁君を怒らせようとしてるのに、何でそんな反応なんだ。邪魔だなぁって怒ってくれていいのに。 「彰仁君は何で怒らないの?」 「怒る?……え、どこに怒る理由があったんですか。」 「今、俺は君の仕事の邪魔をしてる」 「邪魔……いや、こんなこと滅多にないので寧ろ嬉しいですけど。」 「嬉しい!?」 この子はおかしい! 驚いて口を両手で覆うと、彰仁君は首を傾げる。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!