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好奇心
***
デートの当日。
仕事を早く切り上げて、ビルの前で待っていると彰仁君が車で迎えに来てくれた。
助手席に乗ると「お疲れ様です」と言って俺の大好きな甘いカフェオレを笑顔で差し出してくれる。某有名コーヒー店の美味しいアレ。
「ありがとう」
甘い笑顔に大好物の甘いカフェオレ。甘やかされて胸がトロトロになりそうだ。
「先に美容室に行きます。その後服を買いに。」
「うん」
「その後は家に帰らずホテルに行きます。」
「……うん?」
「忘れてませんよね?」
赤信号で車が止まる。
彰仁君は俺を見てふんわりと笑った。
……思い出した。そうだ。そうだった。
「でも、なんでホテル?家でも充分……」
「デートなので特別な雰囲気も必要かなと」
「なるほど」
目的地につき、車から降りてキラキラとした美容室に入る。
こんな高そうなところ初めてだ。
驚きと緊張で思わず彰仁君の服を掴む。
「優一さん?」
「き、緊張、する」
俺の言葉に不思議そうに首を傾げる彼。
そりゃあそうだよね!君はきっとこういう場所にも慣れているよね!
「東條様、お待ちしておりました。お席に案内いたします。」
彼と一緒に美容師さんに連れられて用意されている席に座る。
緊張してガチガチになる俺を彰仁君はクスクスと笑う。
「彰仁君……なんで笑うの」
「そんなに緊張しているのは、俺の両親と初めて会った時くらいじゃないですか?」
「そ、そうだね……」
担当の美容師さんと話をして、髪型はもう全てお任せした。
そして仕事で疲れていたのか、髪を切ってもらっている間からウトウトしだして、切った髪をシャンプー台で流し、元の席に戻ったところまでは辛うじて起きていたけれど、それ以降の記憶が無い。
彰仁君の「優一さん」と俺を呼ぶ声でハッとしていつの間にか閉じていた目を開ける。
「ん……え、彰仁君?」
「終わりましたよ。」
そう言われ、慌てて鏡を見ると髪が短くなっていた。
すごい。格好いい。
彰仁君を見ると、彼の髪も短くなっていて手を伸ばし頬に触れた。
「え、優一さん」
「格好いい……」
「ありがとうございます。優一さんもとても似合ってますよ。」
ふふっと笑いあっていたけれど、ここは美容室。
すぐそこには俺たちを見てニコニコ微笑む美容師さん達がいる。
恥ずかしくなって俯いた俺を他所に、彰仁君は支払いを済ませて、手を繋ぎ一緒に店を出た。
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