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だからお前は 寒沢side

高校を卒業した。 俺の番はまだ高校生で、最後の一年を寮で過ごしている。 それがある夏の日、滅多にかかってくることの無い電話が純からかかってきた。 「はい」 「幸鷹ぁ」 「あ?……何お前。どうした」 仕事をしていた手を止め、耳を澄ませる。 いつもより小さくて、甘えたような声。 「プリン、買ってきて……」 「はあ?」 「俺、熱。プリン買ってきて」 「熱?」 時計を見て溜息を吐く。 今は朝の十時。秘書と内線を繋ぎ今日の予定をキャンセルするように伝える。大した用事も無かったので、あっさりと了承してくれたことに安堵した。 大人しく電話を繋げたまま待っていた純に「もしもし」と言うと弱々しい声が返ってきた。 「熱はいつからある。何度だ。病院には行ったのか?」 「熱は……三日前、くらいかなぁ。今は三十八度。病院は行けてない」 「お前は本っっ当に馬鹿だな!何でもっと早く連絡しねえんだよ。」 本社ビルの玄関口につけられた車に乗る。 白樺へ向かうように運転手に伝えた。 「プリンは後だ。お前はこれから病院。」 「えぇ……」 「ええじゃねえよ。出る準備しとけ。」 「うん」 電話を切り、白樺に向かう途中で近くの病院をスマートフォンで検索する。 あいつが通っている所があるならそこに行くけど、なかったら少し困るから。 白樺に着き、運転手はそこで待たせて、校門横のドアを開ける。 警備員に卒業生であることと、オメガの寮に入る許可証をくれるように伝え、受け取ってすぐに純の部屋まで行く。 コンコンとノックをして名前を呼べば、ドアが開いた。 マスクをして冷えピタを額に貼った、正直に言うとボロボロの状態で辛うじて立っている様子に見える。 「お前……電話の様子と状態が合ってねえんだよ!」 「やって、心配させたらあかん思ってんもん……。ていうか、大きい声出さんといて。頭痛い……」 「……保険証持ってるか?」 「うん」 「いつも行ってる病院はあるか?」 「ない」 コホコホ咳をする純はゆっくりと靴を履いて、部屋を出て鍵を閉めた。 「背中乗れ」 「ううん、歩ける」 「フラフラだから危ないんだよ。いいから言うこと聞いてろ」 唯一隠れていない目が睨むように俺を見たけれど、言い合う体力は残ってないようで、大人しく俺におぶられた。

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