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オレンジ 優一side
仕事帰り。今日は一人で帰っている。
いつもは待ち合わせをしたりして、彰仁君と帰るけれど、彼の仕事がまだ終わらないらしくて無理だった。
一緒に暮らし始めてから、初めて乗る電車。時間は満員電車となるちょっと前だったから、窮屈することは無かったけど、わざと一駅前で降りて、そこからは歩いて帰ることにする。
歩いていると空がだんだん赤くなっていく。
夕焼け綺麗だなぁ。歩くのをやめてスマートフォンを取りだし写真を撮る。
「──あれ、栗原さん?」
そんな時、背後から声をかけられて振り返ると、同僚がいた。いつも優しくしてくれる男性の同期の橋本さん。同期とは言っても彼の方が早く入社しているけれど。
「お疲れ様です!あれ、お家ここら辺なんですか?」
「お疲れ様です。いや、実は歩きたいなって思って、一駅前で降りたんですよ。」
少し話をしながら足を動かし歩いていく。
居酒屋が賑わい始めていて、焼き鳥食べたいなぁと思いながら店を見ていると「一杯行きます?」と誘われ、ついつい頷いた。
店に入り、とりあえずビールと焼き鳥を数本注文する。
ビールはすぐに運ばれてきて、乾杯をし、ごくごく飲む。
久しぶりにビールを飲んだ。
「栗原さんは会社に入るまで何をされてたんですか?……って聞いてもいいのかな。」
「バーでアルバイトで働いてました。あー……あの、仕事じゃないから、もしよかったら敬語はやめませんか?」
「え!勿論!嬉しい!俺ずっと栗原さんと仲良くなりたくて、でもちょっと距離感がわからなかったから……」
「……もしかして俺の番の立場のこと?」
「うん。……やっぱり、ね?」
彰仁君の番だということはとっくに同僚は知っている。だから俺とどう関わったらいいのか分からなかったみたいだ。
彰仁君は所謂会社のトップだから。
「俺は俺だし、彼は俺の仕事や周りの事に厳しい人じゃないから、橋本さんの好きなようにしてほしいかな。」
「うん。じゃあそうする。話戻るんだけど、もしかして東條さんとの出会いはそのバー?」
「そうだよ。お客さんとして彼が来たんだ。話をして、仲良くなった。」
出会った時のことを思い出すと少し恥ずかしい。
その後も他愛のない話をしているうちに、お酒をいっぱい飲んでいたようで、気持ちよくなってきた。
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