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オレンジ

「栗原さん、そろそろ飲むのやめた方がいいよ。」 「あ……うん。でも、でも、すごく美味しい……。こうして誰かと気兼ねなく話して、飲んでって初めてだから……」 「栗原さんなら俺はいつでも付き合うよ。だから今日はおしまいにしない?」 空になったジョッキ。美味しいお酒だ。 「栗原さん、電話鳴ってるよ。」 「電話……」 テーブルに伏せて置いていたスマートフォンが振動している。画面を見ると彰仁君からの着信だった。 「彰仁君だ」 「え……。やばいんじゃない?早く出た方がいいよ」 「うん」 橋本さんに返事をしてから、彰仁君の電話に出る。 「もしもし」と言うと「優一さん?」と優しい声が返ってきた。 「今どこにいますか?終わったので、まだ外なら迎えに行きます。」 「今、今は……今、ここ、どこだっけ……?」 「……お酒飲んでますね?」 「うん。橋本さんと会って、焼き鳥食べたくなって、いっぱい飲んだ。」 「場所は分かりませんか?」 「橋本さん、ここどこ?」 橋本さんに場所を聞くと、「俺が伝えようか?」と言われたので、お願いすることにする。 スマートフォンを渡すと、少し緊張した面持ちで「橋本です。」と彼に挨拶していた。 その間にハイボールとチキン南蛮を注文する。 電話を終えた橋本さんが「まだ飲むの?」と苦笑して聞いてきたので、大きく頷いておいた。 暫くして運ばれてきたチキン南蛮。タルタルソースをたっぷり付けて食べると、あまりの美味しさに感動した。 「これすごく美味しい!」 「よかった、ね……」 「ん?」 俺の後ろを見て、言葉を途切れさせる。 振り返ると彰仁君が立っていて、嬉しくなった。 「彰仁君こっち座って!」 「……どれだけ飲んだんですか。パーティーの時のこと覚えてないんですか?」 「んー、ふふ、忘れちゃった。ねえ、こっち座って!」 隣に腰を下ろした彰仁君の口に、チキン南蛮を押し付ける。 「食べて」 「ん」 もぐもぐと口を動かす彰仁君。 それがとっても可愛くてまじまじ見ちゃう。 「あー、あの、俺帰りましょうか?」 「いえ。橋本さん、すみません。ご迷惑をおかけしました。」 「いえいえいえいえ!何も迷惑じゃないです!」 彰仁君と橋本さんが話してる。 ぼんやり眺めながらハイボールを飲み、空になったところで店員さんを呼ぼうとして止められた。 「すみません。連れて帰ります。」 「はい。そうしてあげてください。」 椅子から立たされる。ふらっとして彼にもたれかかった。 橋本さんも帰り支度をしていて、彰仁君が伝票を持ち会計をした。

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