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秘密事
「頼れる人、居なくて、唯一君と初めて会ったあのバーのオーナーだけは優しかったんだ。今だから言うけど、あそこのバーは怖い人がオーナーをしててね、最初はそこで働かせてもらうのも怖かったけど、すごく優しくて……。」
「そう」
「でもオーナーは時々しかいなかったから、彼がいる時は賄いも貰えたんだけどね。というか彼がご馳走してくれた。店長と他の従業員はいい顔してなかったけどね。オメガがオーナーを誘惑してるって、噂立ててたくらい。」
「……そのオーナーは、それに対して何も言わなかったんですか?」
「んー、俺の前では、何も。他の所では知らないよ。バーを辞める時、オーナーだけはちょっと悲しんでくれたんだ。寂しいって。でも、おめでとうって。」
優一さんは真面目にあったことの話をしてくれているのに、俺はオーナーの話の部分で嫉妬をしてしまっていて恥ずかしい。
「それで君を好きになって、ずっと無かった発情期が来たおかげで彰仁君と番になれて、有難いことに借金の返済まで手伝ってくれた。……なのに最近夢で、ずっと俺を追い詰める声や場面だけ流れてくるんだ。あの時の辛い事が夢なのに現実に起きているみたいに体が辛い。」
「……優一さん、すごく緊張してる。体がガチガチだ。」
「あ……ご、ごめん」
「ううん。思い出して辛いんだよね。今まで掛けられてきた言葉が追い詰めてくるんだよね」
「う……ん」
ポンポン、背中を撫でる。
どうするのが正解なのか分からない。
けれど、何もしないより、俺が彼に愛情を伝えて一人で我慢しなくていいと教えていく方が効果はあるはず。
「今優一さんの隣には俺がいます。もし次、同じ夢を見たら夢の中でも俺が隣にいるから。」
「え……俺の夢に彰仁君が出てくるの?」
「出ます。安心して」
「っふ、ふふっ、そんな器用なこと、できるのっ?」
馬鹿なことを言っている。その自覚はある。
けれど優一さんが笑っているので満足だ。
「現実でも、優一さんが魘されていたら大丈夫だって伝えます。そもそも夢を見ないようにすればいいなら、疲れさせて深い眠りにつけばいいんだし。」
「疲れさせて?」
「俺はその方法が一番効果があっていいと思う。愛情も伝わるし。」
「……彰仁君、まさか、エッチのこと言ってる?」
「正解です」
「君って時々頭がいいのかそうじゃないのか、わからないときがあるよね。」
遠回しにバカだと言われた。
けれどあながち間違いでは無いので反論しない。
「じゃあ、あの、えっと……」
突然モジモジしだした優一さん。
抱きしめていた腕を離すと、顔を上げて小さく困ったように笑う。
「なんだか……疲れること、したくなっちゃった。」
「体が辛いのは?」
「嫌な事から彰仁君が守ってくれるんでしょ?夢を見ない限り、体は辛くないよ。」
「うん。俺が優一さんを守るよ」
そっと唇を重ねると、薄く口を開けた彼の口内に舌を挿入した。
服の下から手を入れて、そっと脇腹を撫でる。
「んッ、くすぐったい……っ」
「ベッド、戻る?」
「ま、待てないから、ここでする」
「わかった」
可愛い彼の要望に応えて、今日はリビングのソファーで致すことにする。
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