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06.長い長い 一人の夜①
「ユウ、俺は、寝るぞ」
カイはそう言うと、白いお薬をビールと一緒に飲みこんだ。
「煙草、煙草……あっ、二本しかねーじゃん。
買い置きも切れてるし……しくった。
龍華に買ってこさせりゃ良かったなー、チキショウ」
カイは週に一度か二度、夜眠る前にお薬を飲む。
その後は決まって煙草を片手にバルコニーに行って、吸い終えるとフラフラになって戻って来るんだ。
今日もそう。
危なっかしい足取りでバルコニーから帰って来て、そのまま寝室に向かってしまう。
途中、手から煙草の箱がポロリと落ちたのも気がついていないみたいだ。
リビングを出た後のドアも、勿論開けっ放し。
そんな調子だから、お薬を飲んだカイがちゃんとベッドに辿り着けたことはほとんどない。
この前なんか本当にひどくて、寝室の手前で力尽きて眠っていたんだよ。
叩いても揺すっても全然起きないから、とっても怖かった。
またそんな風になっていたら大変なので、後を追う。
すると、思った通りカイがベッドの端っこに頭だけを乗せたまま力尽きて寝ていた。
……もう、仕方ないなあ。
「んしょ、んしょ……」
おれはカイの脇を持って、ベッドにひっぱり上げる。
カイって、実はとっても軽いんだよね。
「ふう」
カイをベッドの真ん中まで引きずって、最後にお布団をかけてあげた。
これでもう大丈夫。
カイ、いつもは少しの物音でも起きてしまうのに、今日はこんなに動かしても起きないなんて。
お薬ってすごい。
だけど、だからこそやっぱり怖い。
カイは元々肌が真っ白なんだけど、ぐっすり眠っていると血の気が抜けて更に顔色が白くなるから、このままもう起きないんじゃないかって怖くなる。
ここに来る前、おれはそういうのを何度も見てきたから、余計にそう思う。
急に不安になって、カイの口元に耳を寄せる。
すうすうという寝息が聞こえた。
それから、ほっぺたにもそっと触れる。
ちゃんと、あたたかい。
でも、それだけだとまだ不安で、今度は胸に耳を当ててみる。
そこからドキンドキンと鳴る音を聴いて、やっと安心できた。
おれはそのままそこで丸まって、カイが生きている音を聞きながら目を閉じる。
……けれど。
いくらひっついてみても、いつもの様にギュッとしてもらえなくて、だんだん寂しくなってきてしまった。
今日は龍貴たちがおそくまでいて、カイにあんまり遊んでもらえなかったから、なおさらだ。
「カイ~……」
ムダだと分かっていても、その上着を引っ張って、お腹をこちょこちょしてみる。
勿論、反応はない。
「んん……」
仕方なくほっぺたにスリスリしてみたけれど、寂しい気持ちを凌げたのはほんの数分だけ。
更に悪いことに、大好きなカイにくっついていたらだんだんエッチな気持ちになってきちゃった。
おちんちんはもう勃っちゃったし、お尻もうずうずする。
そういえば、今日は朝の一回しか気持ちいいこともしてもらえてない……。
「ねえ、ねえ、カイ、ちょーだい……?」
カイの体に跨がってそうおねだりしても、勿論カイは眠ったまま。
「う"ー」
困って体を揺すっていると、偶然お尻にカイのものが当たった。
それだけでも気持ちよくて、頭の奥がチカチカする。
「カイ、カイ」
「んー……」
「……」
本当にカイは全然起きる気配がない。
けど、おれももうガマンなんかできない。
一人で寝ちゃうカイが悪いんだからね。
ほっぺたを膨らませて、おれはカイのズボンをパンツごと下ろした。
露になったおちんちんに頬擦りをすると、カイのにおいがして、うっとりする。
まだ萎えているそれをねっとりと舐めると、口の中に熱と、大好きな味が広がって何とも言えない幸福感に胸が踊った。
「ん、ん……」
夢中になってカイのおちんちんをしゃぶる。
けれど、全然固くも大きくもなってくれない。
これじゃあ、挿れられない。
仕方なくベッドの横の小さな机の中からローションを出して、指にたっぷり馴染ませた。
それからもう一度カイのものをくわえて、お尻を高く上げる。
「んむ、んん」
おちんちんを頬張りながら、勃った自分のものを触る。
でもそこだけじゃ物足りなくて、結局はお尻の方にも手を伸ばした。
孔の縁をぐりぐりした後、一気に指を突き立てる。
そうすると、
「ひあっ」
って、声が漏れてしまうほど気持ち良かった。
思わず離してしまったカイをもう一度咥え直して、気持ちいいところを思う存分擦る。
自分の意思とは関係なく動いてしまう内壁が、きゅうきゅう指を引き込んでいる。
「んむ、む……はあ、はあ……」
少しだけ、カイのが大きくなった。
嬉しくなってペロペロしながら、お尻ばかりを弄る。
「はん、ん……んん、あっ、カイ……イく、ユウ、イっちゃ……ああん!」
大きな快感の波に抗う理由は、どこにもない。
おれは流されるままに体を震わせながら、呆気なく達した。
咥えたままのカイのおちんちんから、僅かに溢れてきた先走りをちゅっちゅと吸い、じんわりとした快感の余韻に浸る。
気持ち良かった。
……けど、足りない。全然足りない。
カイのおちんちんをいくら刺激をしたって、これ以上大きくも固くもならなそうだ。
大好きなカイの精液をゴクゴクしたかったけど、きっと今日はもう無理。
じゃあ、どうしよう。
カイが起きるのは、きっと明日の朝。
そんなの待っていられない。
また疼き始めた体を引きずるようにして、おれは虚しい気持ちと一緒にベッドから降りた。
カイのことは大好きだけど、今はこれ以上一緒にはいられない。
体だけが熱くなって、苦しい思いをするだけだからだ。
今夜はリビングで寝よう、そう思って廊下を這い出した時、おれは急にいいことを思い付いた。
そうだ!お散歩に行こう。
それで、誰かに遊んでもらえばいいんだ!
おれはすぐに準備をして、家から抜け出した。
火照った体にまとわりつく少し冷たい夜風が、とても気持ちいい。
そういえば、マンションの前の建物一階の居酒屋さん。
いつもなら夜は沢山のお客さんがいて、とても賑やかなんだけど、今日はシャッターがしまっていて、しんと静まり返っていた。
前に一度だけ、カイと行ったことがあるんだ。
パングラタン、美味しかったなあ。
また連れていってほしいな。
なんて事を思いながら、駅に向かって歩いていく。
目的地は、商店街を抜けてすぐにある小さな公園のベンチ。
"もしかしたらレイがいるかも"
なんてちょっと期待していたのだけれど、残念なことにそこにはレイはおろか、誰もいなかった。
レイっていうのは、おれの友達。
一年くらい前まで、よくうちに遊びに来ていた子だ。
小さくて、可愛くて、いいにおいがして……。
おれは、レイのことも大好きだった。
レイは奴隷ではなかったけれど、たくさんのご主人さまがいた。
それなのに、いつも他にも遊んでくれる人を探していたんだ。
そんなレイがいつもその日限りのご主人さまになってくれる人を待つために使っていたのが、この公園のベンチだ。
ベンチに座って待っていると、誰か遊びたい人が声をかけてきてくれる。
ここは"そういう場所"なんだって。
教えてくれたのは、レイだった。
おれはベンチに腰を下ろし、明るい夜空を見上げながら足をブラブラと振って誰かが来るのをじっと待つ。
前はよくレイと二人でここに座って、お喋りをしたっけ。
何だか、とっても懐かしい。
レイは今、一体どこで何をしているんだろう。
「レイ、げんきかなあ……」
レイのことを考えていると懐かしくて、でも会えなくなってしまったことが寂しくなって。
なんとなくそう呟いた、その時。
「お兄ちゃん、何してるの?」
二人組のおじさんに、突然声をかけられた。
「……」
おれは、二人の顔を交互にじっと見る。
すると、ノッポのおじさんがおれの横に腰を下ろして尋ねてきた。
「誰かと待ち合わせ?」
おれは首を横に振る。
ふうん、と前に立った太っちょのおじさんが顎を触りながら言った。
おれは、二人が話しかけてきた意図を何となく察する。
一方、彼らの質問は続いた。
「一人?」
頷く。
「今から、時間あるかな?」
……頷く。
すると二人は顔を見合わせて、にんまりと笑った。
ノッポのおじさんがすぐにおれの肩に手をおいて、耳元で囁く。
「じゃあ、おじさんたちと遊ぼうか」
おれは、また頷いた。
二人より三歩遅れ、その後を付いて行く。
そうやって行き着いた場所は、駅の裏側にある寂れたラブホテルだった。
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