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07.長い長い 一人の夜②

「なんだよ、もう始めちまったのか?」 「こいつが物欲しそうな顔で見てくるからさ」 「んぶ、ん、ん」 太っちょのおじさんが、シャワー上がりのもう一人と話をしながら、おれの頭を股間に押し付ける。 おちんちんが喉の奥に入ってきて、噎せてしまったが、おじさんは構わずオナホみたいにおれの頭を前後に動かす。 苦しい、苦しい。 だけど喉に固くて熱いものが当たる度、気持ち良すぎて頭がクラクラした。 「ぇ、ぉえ、え」 「あー、締まる締まる、なかなか上手いじゃないか」 「ちぇっ。 じゃあ、俺はこっちを先にもらうぞ」 「ン!」 お尻を割り開かれ、冷たいローションが垂らされる。 「ん"、ん"っ……ぷあ」 「こら、離すなよ」 「んむむ!」 ゴツゴツした太い指が挿入される。 じゅぶじゅぶと下品な音を立てながら、中を掻き回し。 「お兄ちゃん、随分使い込んでるんだね。 もう指が三本も入っちゃったよ」 「はは、ホントだ。すげー音だな」 「早くチンポが欲しくてたまんねえって孔だな。 望み通り、くれてやるよ」 「……っ、あ"あ"っ」 「だから口離すなって言ってるだろうが」 「う"う"、ぇ……っ」 後孔に固くて熱いものが当てられた次の瞬間、一気に貫かれる。 一番奥にいきなり力一杯当てられる。 鋭い痛みを感じると同時に、目の奥ががチカチカした。 「なんだよ、コイツ挿れただけでイっちまったぞ」 「はは、漏らしてるみてーに精液垂れ流してやがる」 「とんだ好き者だな。 けど、まだまだ終わりじゃないぞ」 「あ、ひあ、あ!」 おじさんが動くたび、ベッドがギシギシと軋んだ音を立てた。 スプリングが痛みきった、固いベッド。 少しすえたような、カビ臭くて薄暗い部屋。 乱暴なセックス。 カイとは全然違う。 彼がどれだけ自分を丁寧に扱ってくれているのかを実感する。 しかし、こんなセックスでもおれは気持ちよかった。 気持ちよくて、たまらなかった。 ……なのに、心は全然満たされない。 上等なベッドを飛び出してまで大好きなセックスをしているのに、こんなに虚しいのはどうしてだろう? 「うっ、出る……っ」 「……はあ、こっちも出すぞ」 「んっ、んーっ!」 臭くて濃い精液を受け止めて、こぼさないように口を開いて見せる。 それをおじさんは満足げに見下ろした。 もう一人のおじさんは、おれの尻を高くあげさせて、後孔を開き指でかき混ぜる。 指を引き抜くと同時に溢れ出た精液を見て、にやにやと笑った。 今度は後ろから抱かれたまま仰向けに寝かされた。 挿入する方を、交換するようだ。 胸に跨がったノッポのおじさんに頬を掴まれながらおちんちんを咥えさせられる。 「慣らさなくてもいいよな、もうぐずぐずだし」 太っちょのおじさんはおれの足を開かせて、おちんちんを孔に当てながらそう言うと、ゆっくり腰を進めていく。 痺れるような快感が背骨から頭に通り抜けていく。 びくつき跳ねるおれの腰を、おじさんが激しくピストンしながら押さえつけた。 それからおじさんたちは続けて二回ずつおれの中に出し、ようやく満足したようだった。 「とても楽しかったよ」 「また機会があったら、遊ぼうね」 彼らはそう言うと、おれを残して部屋を出ていく。 おれはドアが閉じていく音を聞きながら、胸の奥が更に冷えていくのを感じていた。 おかしいな。 カイとした後はいつもあったかくなるのに。 ……おかしいな。 その後、薄暗いシャワールームで後始末をした。 あまりお風呂は好きじゃない。 でも、おじさんので汚れたままでいる方がずっと気持ち悪かったから、我慢をした。 シャワーから上がり、床に脱ぎ捨てられた服を拾い上げると、紙がふわりと二枚落ちてきた。 拾ってみたら、それはお金だった。 さっきの二人が置いていったようだった。 お札をポケットに突っ込んで、ホテルを出る。 夜も深まったせいか、風はさっきよりも寒くなっていた。 さっきおじさんたちと沢山セックスをしたけれど、まだ心は冷えて寂しいまま。 夜はまだまだ長いし、もう一人くらい遊んでもらってもいいかな。 なんて考えながら公園に戻る途中、ふとコンビニの明るい看板が目に留まった。 そういえば、のどが乾いちゃったな。 お金もあるし、おれはコンビニに寄ることにした。 コンビニにはカイのお使いでよく来るから、大丈夫。 お買い物のやり方は、ちゃんと分かっている。 棚から大好きなミルクを手に取って、レジへと向かう。 並んでいる最中、煙草がレジの奥に並べられているのを見て、さっきカイがもう残りがないと言っていたことを思い出した。 明日の朝、もし煙草が無かったら、カイはきっとイライラしてしまうだろう。 だから、ついでに煙草も買うことにした。 公園には、相変わらず誰もいなかった。 次に声をかけてくれる人を待ちながら、ミルクに口をつける。 けれども、一口飲んだそれが思ったよりずっと冷たくてびっくりしてしまう。 カイがくれるミルクは、もっとあったかくて、甘くて、美味しい。 何故なら、カイがおれが飲みやすいようにあたためて、お砂糖を入れてくれるから。 ただのミルクがこんな味だったなんて、すっかり忘れていた。 「カイ……」 冷たいだけのミルクを飲んでいたら、急にカイが恋しくなってしまった。 気がつけば、夜の町に吹く風は冷たくて、むしろ寒い。 そのせいで心は益々冷えて、余計にカイへの思いが募った。 鼻の奥がつんとして、視界がゆがむ。 「ふぇっ、カイ……」 とうとう堪えきれなくなって、涙がこぼれた。 するとその時、そんなおれに、 「あれっ?ユウじゃん」 と、声をかけてきた人がいた。 鼻水をすすりながら顔を上げると、そこにはよく知っている人の顔があった。 「おい、奏太、どうしたんだよ」 「次の店行こうぜー」 「あ、いや……」 奏太はおれと仲間を交互に見た後、おれに目配せをした。 そして、一緒にいた二人に何かをお話ししている。 奏太は、おれの友達だ。 家がお花屋さんをしていて、その手伝いをしている。 カイのお店のお花は全部奏太が持ってきてくれるんだ。 それで顔を合わせているうちに、いつの間にか仲良くなった。 奏太は仲間を見送ると、真っ直ぐおれの方にやってきた。 「そーた、なんで、ここ」 「そこの店で飲んでたんだよ。 お前こそどうした?カイさんは?」 「カイ、ねてる」 「?、そ、そうか。 じゃあカイさんは家なんだな? じゃあ早く帰りな。 きっとユウのこと心配して待ってるよ。」 「カイ、ねてるもん……」 「寝ながらでも、待ってるよ。 カイさんは、お前のことが大好きなんだから」 「……ほんと?」 「俺が嘘ついたことあるか」 「ない!」 「じゃあ、帰ろう。送ってやるよ」 奏太はそう言って笑うと、おれの手を掴んでくれた。 あたたかい奏太の手に触れて、ほっとした。 ぎゅって握ると奏太も握り返してくれる。 その瞬間、さみしい気持ちが少しだけ和らいだ気がした。 「あ、ここの居酒屋もとうとう閉店したんだなー。 ビルごと直すらしいけど、次に何が入るんだろうな」 「ユウ、わかんない」 「だよなー。ほら、ついたぞ」 「うん」 「中まで行こうか?」 「だいじょぶ」 マンションの前につく頃には、すっかり涙も引いて元気になった。 エントランス前の階段をピョンピョンと飛び越えて、中に入る。 振り返ると、奏太が笑顔で手を振ってくれていた。 だからおれも、ニコニコで両手を振り返した。 帰るとすぐに、煙草とお金を放り投げて寝室に向う。 カイは、出ていったときと全く同じように眠っていた。 おれはその横に転がり込む。 そして出来るだけカイにくっついて、体を丸めた。 ーー……あたたかい。 そのにおいと、ぬくもり。 胸の中の冷たさが一瞬で消えて、かわりにあたたかいもので満たされて行くのを感じる。 「うーん……」 するとその時、寝ていたはずのカイが動いた。 うっすらと瞼が開いて、ぼんやりした赤い瞳が見える。 「なんだ……いたか……」 それからカイはふにゃふにゃとそう言うと、おれを引き寄せ、抱き締めた。 突然のことに、おれはビックリしてしまう。 「カ、カイ、あの」 「あー、あったけー……ぐー……」 「……」 とくん、とくんと穏やかな胸の音が聞こえた。 おでこにかかる寝息も少しくすぐったい。 そのこそばゆさは、さっきのおじさんたちとのセックスよりも、何倍も、何十倍も気持ちいい。 心はポカポカで、もうちっとも寂しさも虚しさもない。 なんて幸せなことなんだろう。 おれはウフフと笑って、カイを抱き締め返す。 そして、 「ただいま、カイ。 おやすみなさい」 と呟くように言い、ゆっくりと瞳を閉じた。 それは長い長い 一人の夜が、やっと終わった瞬間だった。

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