ベッドに下ろされるや否や、もう我慢できないとばかりに誉が口付けてくる。 性急なキスに気を取られている間に、ズボンを下着ごと脱がされてしまった。 いくらなんでも全裸は恥ずかしすぎるから、せめて上着だけは死守する。 「仕方ないなあ」 誉はそう言って、ボタンを外すだけで許してくれた。 シャツの前を割り、大きな手が入ってくる。 胸の突起を指の先でつつき、ゆったりと腹を撫でた。 「本当に可愛いよね」 「へ？」 「キレイな桃色」 誉はそう言うと、俺の胸、それからぺニスを順番に撫でた。 途端、カッと顔が熱くなる。 大人になっても尚、子供のような色のそこは、俺のコンプレックスの一つだ。 「しょ、しょうがねえだろ、色素がねーんだから。 も、やだ、電気消す」 「ダメ、よく見せて」 「……あっ、やっ」 誉は俺の胸に顔を埋め、乳首をぺろりと舐めた。 それからちゅっと吸い付く。 そこを何度も強く吸いながら、体全体を撫で回す。 優しい刺激を受け続けて敏感になった素肌。 触れられる度にピリピリする。 「んんっ」 「気持ちよくなってきたね」 そんなことはないと首を横に振るが、ぺニスはしっかり勃ってしまっている。 説得力の欠片もないその事実が恥ずかしくて、上着を伸ばして隠そうとした、が。 「あのさ、そういうところが人を煽るって……分かってないんだろうなあ」 誉はため息混じりにそう言うと、俺の手を簡単に捻り上げて顔を近付けてくる。 鼻のてっぺんがくっつくほどの近い距離で視線が交わると、にっこり微笑まれた、そして。 「……やっ！んむっ」 キス、そして性器への性急な刺激。 先端から溢れているであろう体液を指で絡めとりながら巧みに裏筋を擦られる。 「んく、ん……」 ぞくぞくして引っ込む舌を吸い出され、口内が誉の大きな舌で一杯になる。 何とか追い出そうと頑張ったが、顎が痛くなるだけでびくともしない。 今度はいつの間にか解放されていた手で抵抗を試みるが、そのタイミングでぎゅっとぺニスを握られてしまい敢えなく撃沈。 目の前の厚い胸板を軽く押し返すのが精一杯だった。 そのまま与えられる強い刺激に耐えるため、藁にもすがる思いで誉のシャツを掴んだ。 一方誉は、俺の乳首をねっとりと舐め上げながら、ぺニスと後孔を弄り始める。 先端からだらしなく垂れ続ける粘液が、竿を伝い落ちていく。 その滑りを借りて、縁から浅いところを指先でくるくると解される。 「ん、や、やだ」 「そう？物欲しそうにヒクヒクしてるよ」 「……っ、やだ！」 「ハイハイ、櫂の"やだ"は"イイ"だもんね」 「ちがっ、やだ、ほんとに、やだ！」 「ほーら、逃げないの」 引ける腰をがっしり抑えられたまま、誉の舌がどんどん下がっていく。 頭を叩いて抵抗しても、それは止まらない。 俺は半ば青ざめながら誉に自分のものが咥えられる様を見ているしかない。 「うーっ」 赤くなったぺニスが、誉の口から出入りしている様子はやはり異質だ。 現実逃避で、学生時代に使っていた教科書の性器のページを思い出す。 どれだけ記憶を探っても、男にこれを舐められるなんて、ましてやそれがこんなに気持ちいいなんていう記載はどこにも見つからない。 「やだ……誉、へん、やだ」 「変じゃないよ、正常、正常」 「ひあ、つめた……っ」 「うん、大丈夫だから足開いて」 「やだ！」 「はいはい、ありがとう、上手だね」 「いたっ、それ以上は開かないって、ば！」 ローションの滑りを借り、はしたない音をたてながら誉の指が後孔に挿入される。 指の動きに合わせ、ぬるぬるの液体を溢れさせるそこは、女の性器みたいだった。 ……って言っても、動画でしか見たことないけど。 「あっ、あ……あ！」 「いい声、よしよし、気持ちいいね」 「ひっ」 挿入される指が徐々に増やされると同時に、積極的に前立腺を攻められる。 そうされたらもうひとたまりもなく、俺は無理矢理絶頂へと導かれてしまう。 けれども、一人でイくのは怖いから絶対に嫌だった。 だから腹に力を入れてそれを寸前でこらえ、シャツを引き誉を呼ぶ。 そして顎を上げてその耳に、 「いっしょにイきたいから、もう挿れて……！」 とねだった。 すると誉は喉の奥でくっくと笑う。 それから、わかったよと頷いて頭を撫でてくれた。 一旦指が引き抜かれ、かわりに誉のものが押しし付けられる。 俺のとは全然違ってそれはまさに男性の性器、大きくてグロテスクだ。 こんなのが挿入るなんて、未だに信じられない。 喉を鳴らして唾液を飲み込むと、 「美味しそうでしょ？」 と茶化された。 そんなことないと言い返そうとしたが、先端を当てられた後孔が、きゅんと締まってそれを引き込もうとするのを見て押し黙る。 気持ちとは裏腹に、体は完全に誉を欲しがっている。 ……や、違う。 気持ちも多分欲しがってるんだ、だってこんなにもドキドキが止まらない。 「……ス」 「ん？」 「キスする……」 それでもやはり、挿入の瞬間は緊張と恐怖で喉が乾く。 それを和らげる方法はひとつしかない、キスだ。 ちゃんと察している誉は、その通りにしてくれる。 舌の挿入と同じ早さで、ぺニスが胎内に押し進められていく。 誉の大きな舌に自分のを絡めて懸命に吸った。 そうすればするほど安心できるからだ。 「……相変わらずキツい、けど。 君の中、すごく気持ちいいよ、櫂」 とうとう全てが中に収まった。 誉が少し上ずった声で言う。 ここに来て初めて余裕を失ってきた感じだ。 かくいう俺も、もう蕩けそうな程熱くて、気持ち良くてたまらない。 誉がゆるゆる動き始めれば、その度に腹の底がぎゅうっとなって、頭がフワフワしてしまう。 とうとうシャツを握る手から力が抜ける。 布団に落ちかけた頭をがっしりした腕が受け止め、引き寄せた。 きつく強く抱かれたまま、下からはズンズンと突かれる。 絶頂まで、そう長くはもたなかった。 その瞬間に向けて、ひくひくと太股が痙攣し始めている。 それでまた不安になって、必死に舌を伸ばして誉を探した。 すると雛鳥に餌を与える親鳥のごとく、誉がそれをくれる。 ぬるぬるの舌を自分の口に引き込もうとちゅうちゅう吸っている最中、それは唐突に訪れた。 ビリリという脳を貫くように走る稲妻と、ピンと張る背。 熱い濁流に中が満たされていくと同時に、急速に麻痺していく下半身の感覚。 声も出せないような快感に身体中が震え、その瞬間、世界がブラックアウトする。 そして遠ざかる意識の中、最後に聞こえたのは、 「愛してるよ、櫂」 ーーーそんな、お決まりの……でも、一番嬉しい、誉の言葉だった。 ーーーはっ！ 次の瞬間、勢いよく瞼を開いた。 一番最初に見えたのは、少しくすんだ色をした"今の"家の天井だ。 乱れた息、汗でぐっしょりと濡れた背中。 直ぐに状況を把握した、これまでのは、夢だ。 昔の夢を見ていた、なんていう夢だ。 と、同時にさっと血の気が引いて下半身の大事なところを調べる。 よかった、出ていない、セーフだ。 ……滅茶苦茶暑い。 そりゃそうだ、ユウのヤツが腹にしがみついてるんだから。 「…………最悪だ」 あれは、あまりにも生々しい夢だった。 俺は頭を抱える。 目を閉じると、まだ誉の顔が浮かんでくる。 何で今更こんな夢を。 ああ、学会誌で久しぶりにあいつの顔を見たからか？ もう勘弁してくれと自分の頭を三回叩き、ため息をついた。 誉とは、もうとっくの昔に別れた。 いや、正確には一方的に俺があいつから逃げ出したんだ。 けど、あの時はそうするしかなかったし、そうするべきだった。 誉の足枷にだけは、なりたくなかったんだ。 もう終わったことなのに、未だにその時のことを考えると胸の奥がズキンと痛む。 そして、そんな弱い自分に腹が立つ。 ーーと、その時。 「ん……」 腹にくっついていたユウがモゾモゾと動いた。 軽く押すところんと向こうに転がるが起きる様子はなく、寝息をたてて幸せそうに眠っている。 「……ひっでー顔」 仰向けで両手を上げ、ヨダレでベトベトになっているその寝顔は、はっきり言って"酷い"。 思わず笑ってしまいながら、頬をつついてやると、ユウは眉を寄せて「ううん」と唸った。 俺とユウの関係は、かつての誉と俺の関係によく似ている。 あの時の俺はユウと同じように無知で、弱くて、誉がいないと何も出来なかった。 俺は、ユウの柔らかな銀色の髪をすき、その頭を撫でてやる。 それから息を深く吐き、呟いた。 「……でも、俺は最後まで責任を持つよ、お前のこと」 ユウに、俺みたいな思いはさせない、させてはならない。 俺は、絶対にこいつを裏切らない。 ーーそれはユウを引き取った時に立てた、俺自身への誓いであり、戒めなんだ。