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14.二人の夜 ①

頭が痛い。 何かで頭全体をきつく締め付けられているような痛みだ。 かつて常勤医として働いていた頃は、常にこの頭痛に悩まされていた。 効かないとわかっていても飲む気休めの鎮痛剤。 それが原因でまた酷くなる頭痛。 その悪循環で、どんどん病んでいった。 医師の仕事は、これでいて神経を使う。 俺には、そのストレスと疲れが夜になると一気に出て来てしまう癖がある。 前職の最後の方は、かなり強く症状が出るようになってしまったため、自ら薬を処方していた程だ。 今思えば、医者が患者を診ることで病んで行くなんて、ホントどうしようもない話だよな。 そして俺は、今夜も例に漏れずその悪癖に苦しめられている。 さっきからそれを少しでも治めようとバルコニーで煙草をふかし続けているが、全く効果無し。 ふと、リビングを見やる。 ユウがテレビの前で、のんびりとホットミルクを飲んでいるのが見えた。 俺は短くなった煙草を灰皿に押し込んで、ため息をこぼす。 きっと、もうこれ以上は時間と煙草の無駄だ。 だから、仕方なくリビングに戻ることにした。 ユウはソファーとテーブルの間、俺がソファーの上。 それがいつもの俺たちの定位置だ。 しかしユウのやつときたら、折角俺が戻ってきてやったというのに全く反応がない。 ユウがそれ程までに夢中になって見ているのは、機関車が走りながらゴチャゴチャ言っているだけの幼児向けアニメ。 ハッキリ言ってうるさいだけで、俺にはイマイチその魅力が分からない。 けれども、ユウはここ数日間ずっとこのアニメにハマっていて、同じ話をエンドレスリピートで何度も見続けていた。 いつもなら側に俺が座るとユウは直ぐに体を預けてくるのたが、今夜はそれもない。 チビチビとホットミルクを飲みながら、やや前のめり気味でアニメを見つめ続けている。 その肩を押しても頬を摘まんでも、やはり反応はなかった。 つまらなくなった俺は、ユウのマグカップを取り上げる。 それすらも気づかずにユウはミルクを飲もうとして、空振りをした。 一瞬何が起きたのか分からなかったようで、空いた手を見た後、周りをキョロキョロとする。 その姿が間抜けすぎて吹き出すと、ようやく俺の方を向いた。 そして「ウウッ」と小さく犬のように唸った後、俺からマグカップを取り戻そうと手を伸ばしてきやがった。 勿論、こいつの思う通りになんかしてやらない。 意地悪にカップを見せつけながら、ミルクを飲み干そうとして、舌が焼けるようなその甘さで直ぐに断念した。 そうだった。 こいつのホットミルクは、これでもかと言うほどコンデンスミルクを入れた″ゲロ甘″仕様なんだったんだ。 「ユ、ウ、の!」 あまりの甘さに胸が悪くなった俺の隙をぬって、ユウはコップを取り返し、再びそれを啜る。 「うるせーな、お前のモンなんか一つもねえんだよ」 俺は直ぐにその鼻っ柱に噛みつくように顔を近付け、再びコップを取り上げる。 ついでにテレビも消してやった。 「あぁ……!」 ユウから落胆の声が漏れる。 次いで向けられるのは、フグのように頬を膨らせた顔だ。 「ハイ残念。テレビもミルクも、おしまい」 「う、うー!」 大人げないことをしていると頭では分かっている。 だけど俺がこんなに疲れているのに、ユウがいつも通りまったりとした夜を満喫しているのが癪だった。 コップを高く上げたまま、手を伸ばしてくるユウを受け流す。 ユウはうんうん唸りながら、俺の膝にまで乗って頑張るが、身体能力が低すぎて敵わない。 するとユウは眉間に深くシワを寄せ、挑戦的な目で俺を見上げてきた。 普段、感情表現が乏しいユウの珍しい反応に驚きつつ、 「なんだ?怒ったのか? お前でも怒るんだ……」 と言った、刹那。 「!」 ユウが突然、俺の肩に手を伸ばしながら、顔を寄せてきた。 そしてあれよあれよと言う間に、唇を重ねてくる。 ユウの舌は素早く俺の唇を巧みに割り開き、ぬるりと侵入してくる。 頭が痛くなる程の、クソ甘いキスだった。 ユウは更に俺の頬と下顎を手で覆い、角度を変えて深く口付けてきた。 そして、俺の舌を甘く噛みながら、ぐるりと口内を一周愛撫し終えた所でそっと口を離す。 自分から仕掛け、勝手に熱を帯びた碧い瞳が、うっとりと俺を見つめてくる。 澄んだそれに映る自分の白い顔を見るのが苦痛で、俺は露骨に目を反らす。 するとユウは、再び俺の肩に手を回してきた。 そして俺の頭を胸に抱いて、″ぎゅっ″と抱き締める。 頬に感じるユウの体温と、耳を打つ確かな鼓動が、俺のささくれた気持ちを宥めていく。 更にユウは、俺の背を撫でながら穏やかな声で言った。 「いいこ、いいこ、だいじょうぶだよ」 ハッとした。 それはメンタルが不安定になったユウに俺がいつもしてやることだ。 こいつ、まさか分かってやっているのか? 動揺する俺の一方でユウは、続ける。 「ユウがいるよ、だいじょうぶ」 ーー普段は満足に喋ることも出来ない癖に、こんなのは、卑怯だ。 「だいじょうぶ」 ユウは、俺の頭を撫でながらそう繰り返し、最後に額にキスを落としてきた。 顔を上げると、澄んだ碧眼が俺を見下ろしている。 目が合うと、その口元に優しい笑みが浮かんだ。 そしてユウは俺の肩にまた手を置いて、甘えるように体を擦り寄せてきた。 そうされると、つい癖でその腰元に手を回す。 すると今度は俺の頭に頬擦りをしながら小さく笑う。 つられて自分の口元が緩んだのを自覚した。 しかしそれが悔しくて、照れ隠しにくすぐるようにその腰を撫でる。 ユウは、身をよじってクスクスと笑った。 それに気を良くした俺は、マグカップを置いて本格的にユウをくすぐり始める。 まず腹の辺りのシャツを食み、鼻先をその体に押し付ける。 そして再び腰から尻にかけてをくすぐった。 するとユウは俺の頭を抱えながら、ヒィヒィと掠れた声を上げて笑う。 ユウの能天気な笑い声、温もり、石鹸と少しだけ薬品の香りが混ざった″イイ″匂い。 それらが少しずつ、俺の気持ちを解していく。 それが分かったからこそ、今度はちゃんとユウを抱き締めた。 その瞬間ユウは笑うことを止めて、代わりに真っ直ぐ俺を見下ろした。 俺もまた、ユウを見上げる。 そうやって暫く黙って見つめあった後、どちらからともなく唇を重ねていく。 「ん、んん」 今度はちゃんと俺からも仕掛けてやる。 ユウの体の至るところをするすると撫でてやると、ユウの舌先がすぐに震え始めた。 まったく、分かりやすい奴。 「はぁ……」 ユウの舌を吸い甘く噛んで、その流れのまま次に唇と顎をゆっくり食む。 一方で手はユウのシャツに既に侵入を果たし、たくさんの傷跡でボコボコした感触の素肌を撫でていた。 「ァ……ん!」 ユウが、突然前屈みになり高い声で鳴く。 俺が乳首を軽く摘まんだからだ。 男のものとは思えないほど弾力のある乳輪を、人差し指と中指で挟んでぎゅうとつまみ上げる。 それから先端を親指の腹で潰すように捏ねると、ユウの腰がすぐにガクガクと震え出した。 「んぁ……あ」 俺はユウのシャツを捲って、咥えさせる。 一見、女のように真っ赤に熟れた胸が、白肌によく映えている。 「気持ちいいんだろ?」 そう耳打ちをして、更に強く乳首をこねくりまわす。 ユウは、何度も強く頷いた。 その瞳がうっすらと開いた瞬間を見計らって、見せつけるようにその乳をべろりと舐める。 「ヒ……!」 ユウは顔を真っ赤にしながらその刺激を受け止めた。 俺は更にユウの乳首を舐め、吸い、そして捏ねまわしてやる。 「あっあ、ん……、カイ……はあっ」 ユウはふうふうと息を吐きながら、腰を動かしながら身悶える。 「こっちももう、ガチガチじゃん」 俺はそう言うと、ユウの勃起したぺニスを下から上にかけてべろりと舐めて、先端を甘く食んだ。 「ン、ンン、やあ……」 「やめるか?」 「らめぇ……」 「ワガママだな」 真っ赤な顔をしたユウは、切なげに眉を寄せてスンと鼻を鳴らす。 気持ち良さそうにうっとりとし始めたユウに、 「お前だけ、ずるくねえ?」 と言うと、ハッとした顔で起き上がる。 その間にソファーの肘置きに腰を預け、ゆったり座り直した。 ユウが慣れた手つきで俺の股関をまさぐる。 固くなっている真ん中を両手で包むように持ち、見つめながらゴクンと唾を飲み込んだ。 それですぐにその口の中からじゅるりという音が響いてくるのだから、可笑しいったらない。 全く、どんだけ″欲しい″んだよ、お前。 ねだるように顔を見上げてきたので、頷いてやる。 するとユウは嬉しそうに半勃ちになったペニスをスラックスから取り出して、食いついた。

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