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16. 二人の夜③
息を弾ませながら、ユウが懸命に上下に動く。
イってしまうのを防ぐためだろうか、敢えて自分の″イイ″ポイントを外している様だ。
ふと目が合うと、唇を開いて舌をちろりと出してキスをねだってきた。
けれども、敢えて無視をする。
するとユウは一瞬悲しげな目をした後に、そのまま下唇を強く噛んだ。
ペニスが抜けるギリギリの所まで腰を引き上げ、またすとんと落とす。
その度にユウはウッと声を出して喉仏を震わせた。
そしてまた手に力を込め、上体を持ち上げようとした……が。
「ん、う……」
その手は頼りなく震えるだけで、やがてするりと肩から滑り落ちた。
ユウは俺の上に座り込んで、力なく手を垂らしながら息を弾ませている。
そのうち、その胸からヒュウヒュウと良くない音がし始めた。
いけないと思いその頬を撫でると、涙で指の腹が濡れる。
「ごめ、なさ……、いま、いま……」
催促されたと思ったのだろう。
ユウはそう言うと、また手に力を込めた。
が、もう腕も膝もガクガクでうまく動かない。
今日はリハビリもしたし、そもそも疲れているはずだ。
ただでさえ人より劣っている体なのだから、体力的に限界なのは無理もない。
なのに、それでもこいつが必死に俺に尽くそうとするのは、何故だ。
「ユウ、できる」
ユウはそう言ってやっと身を起こすと、またゆっくり動き始める。
俺の首に手を回してしがみつき、懸命に腰を動かした。
肉がぶつかり、体液が絡み合う音が再び響き始める。
そして徐々に弾んでいく俺の息使いを察して安心したのか、ユウの強ばっていた表情がしなやかになった。
「ン……」
ユウは顎を上げて俺を見たが、直ぐにそれを落として代わりに俺のシャツを噛む。
キスが欲しかったのだろうが、さっきから散々俺にフラれているので怖じ気づいた様だった。
「……?!
ぁ、あんんっ」
ユウの矯声が一際大きくなったのは、俺が突然下から強く突き上げたからだ。
「ひっ、や、あ……!」
予想外の刺激に、咥えていたシャツを思わず離す。
そして顎を上げ背をピンと張り、どんどん乱れていく。
「ぁあ、あ……!」
しかしどれだけ乱暴に穿ち続けてもユウは文句を一つも言わない。
それどころか、俺についてこようと必死に合わせてくる。
滅茶苦茶な俺の動きに合わせ、内壁を絞め、緩める。
そうしている間に慣れてきたのか、自分の感じるポイントを敢えて避けるように腰を動かし始めた。
俺の言葉を気にして、何とか気持ちよくさせようとしているのだろう。
こいつはいつもそうだ。
どこかで俺に遠慮をしている。
さっきのキスだって、欲しければ自分からしてくればいいものを。
けど、こいつがそうしてしまうのは仕方ないんだよな。
ユウは、そうやって自分の気持ちを押し殺して、主人の顔色を伺って生きてきたんだ。
そうしなければ、生きてこれなかったんだ。
けどさ、それは今までの話で、これからは……。
ーー……そんなことを考えていたら、急に気が変わった。
俺はユウの肩を掴み、そのまま押し倒す。
そして素早くマウントを取ると、その長い足を無理矢理開かせると、一気に貫いた。
「ア、ア……!」
更に追い討ちをかけるように、ユウが一番感じるところを擦り、更に突いてやる。
「やだ、だめ、ユウ、イっちゃう、からっ。
カイ、だめ、だめ!」
「いいから、イきたいだけイけよ」
「んん、やあ……、ユウだけ、だめ、だめ……」
「大丈夫、俺も気持ちいいから、ほら」
「んんん……っ」
ユウの手を取り、萎えたままのペニスを握らせて一緒に擦ってやる。
何度か促してやると、俺が手を離しても扱き続けるようになった。
すると後ろへの刺激も借りて直ぐに勃ち上がっていく。
ユウはとろんとした瞳をして、かなり気持ち良さそうだ。
……ほら、さっきより大分いい顔になったじゃねえか。
ユウの内壁が搾り取るように蠢いている。
あまりの締め付けに、流石の俺も腰が震えた。
ふうっと熱い息を吐き出すと、不意にユウと目が合う。
俺が感じているのが分かったのだろう、ユウは嬉しそうにくしゃりと笑った。
ーー……なんだよ、それ。
まだ俺を気遣えるだけの余裕があるってことか?
悔しくなって、更に腰を打ち付ける。
「ん!」
するとユウの体が、一際大きく震えた。
俺もそうだが、こいつもそろそろ限界のようだ。
その時、ユウがゆっくりと上身を起こそうとした。
俺の唇を目指し首を伸ばしたが、僅かに力及ばず、またソファーに背中が落ちる。
最後にまたキスをねだっているのだと、震える唇を見て俺は悟った。
ユウは眉を寄せたまま、不安げにじっと俺を見つめている。
諦めの悪いやつ。
そんなに俺のキスが欲しいのかよ。
仕方ねえなあと悪態をついて嬉しい気持ちを誤魔化し、お望み通りユウの唇にキスを落としてやる。
「ん……っ」
ユウは目を一瞬だけ大きく開いた後、ゆっくり瞼を閉じた。
それから遠慮がちに俺の頬に手を伸ばし、触れてくる。
その手の甲をゆっくり撫でながら、優しいキスを繰り返す。
そして最後に、ちゅっと乾いた音だけを響かせて離れると、もっとと追ってきた赤い舌が空振りをした。
それをやけに愛しく思い、舌を出して追いかける。
直ぐに舌が絡まり、ユウのそれに誘われるがままキスは深くなった。
「ふう、う……」
俺の口内に、ユウのくぐもった音が響く。
同時にユウの腰がびくんと跳ねた。
……こいつ、キスで軽くイったな。
なんて思いながら、俺は丁寧にユウの口内を舌で愛撫してやる。
そうするともうユウはトロトロになって、後ろを突くたびに中でイき続ける。
それを幾度となく繰り返した後、お留守になっていたユウのペニスをしごいてやった。
「あ、あ……っ」
男の快感と、本来男なら味わえない女の快感。
両方を一辺にその身に受けて、ユウが鳴く。
「……っ」
そして俺もその時に供え、一度息を大きく吐き出した。
ユウも分かっているのだろう、俺の首に回した腕を引っ張り、抱き締めて引き寄せる。
「ん……!」
俺はまたユウに腰を強く打ち付け始めた。
同時に、その喘ぎ声を殺す程の激しいキスをしながら、最後に一番深く、強く穿つ。
そしてそのままいつも通り引き抜こうとしたのだ、が。
「あ、おい、こら……!」
いつの間にかがっちりと腰に絡められたユウの足。
また、中も思い切り締め付けられる。
「あっ……、くっ!」
「ふあぁ、カイ、きたあ……」
結局抜けず、間に合わず。
思い切りユウの中に放出してしまった。
一方ユウはぺろりと舌を出しながら、自ら腰をグリグリと揺らし最後の一滴まで搾り取ろうとする。
「ン、カイの……いっぱい……えへへ」
「……」
うっとりとそう言うユウの上で、全てを出しきってしまった俺は思い切り脱力する。
そして三回深呼吸をして、メラメラと燃え上がってきた怒りの炎を、
「こんの、バカ野郎!」
「ひーん!」
と、その鼻を思いっきり摘まんで発散させた。
ペニスを引き抜くと、ユウの孔からドロリと白い体液があふれでてくるのが見えた。
″やっちまった″と改めて気持ちが萎えてしまう。
その横でユウは嬉しそうに出てきたそれを中に戻そうとしているわけで……。
「ほんとマジでやめろ、そういうの」
「??」
お前が腹を下しやすいからと気を使ってやってるのに。
親の心、子知らずとはまさにこのことだ。
いや、俺は親じゃなくて飼い主だけどさ。
深くため息をつく俺の顔を、ユウが覗き込んでくる。
それから"ヨシヨシ"とばかりに俺の頭を撫でて、
「かい、あいしてるよ……?」
と、的外れ且つ生意気なことまで言ってきやがった。
「あー!もう!すっげー腹立つ!」
俺はその手をはね退け頭を掻きむしると、ユウを再び押し倒し詰め寄った。
「なんだよさっきから!
勝手にフェラするわ、中出しさせるわ!
お前、自分の立場を……」
「……ユウ、カイ、あいしてる、よ?」
「……そうじゃなくて」
「カイ、あいしてるよ!」
「……。」
もうダメだ。
こいつ、アホ過ぎて話が通じない。
俺が頭を抱える一方で、マイペースなユウは、
「かい、げんきになって、よかった。」
と、笑顔で抱きついてきた。
それがくすぐったくて、けれど温かくて、もう何だかもう全部どうでもよくなってしまった。
だから俺は、
「ほんと、バカじゃねーの」
と、精一杯の悪態をつき、その唇に仕返し代わりの噛みつくようなキスをした。
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