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22.カイのごほうび ②

ひくひくと震える凹んだ下っ腹を優しく撫でてやると、ユウは気持ち良さそうに息を漏らした。 それから眉をハの字にしながら、自らの下半身をそっと覗く。 そこの状態は、恐らく本人の予想通りだったのだろう。 ユウは誇張した自分のペニスを目の当たりにした後、直ぐに俺を見上げてきた。 「ごほ、び……」 身を捩りながらユウが言う。 「そ、ごほーび」 だが、今日のユウはいつもとは違った。 下唇を噛み締めて、ふるふると首を横に振る。 「ユウ、きょう、わるいこ。 ごほーび、ちがう」 まったく。 ユルユルの頭と体の癖に、変なところだけ真面目なやつだ。 「お前、よくやったよ」 「ちがう、ちが……アッ」 ユウの首筋に跡をつけてやりながら、勃ち上がっているペニスを握る。 垂れてきている先走りのぬめりを借りてゆっくり上下に擦る。 喉が震えているのが、唇を経てダイレクトに伝わってきた。 「最初は誰でもあんなモンだって」 「ん、ゃあ、カイ……」 「アースだって、今じゃあんな先生面してるけど、初日は酷かったんだぜ?」 「ぁ、アース、も?」 「酒は溢すわ、先輩の客は横取りしちまうわ。 ライターは流石に使えたけど、思いっきり客の顔照らしちまってたしな」 「……ンっ、はあ」 「だから、気にすんな。 今日はお前にしちゃぁ、上出来だ」 「ひあ……!」 ユウの背がピンと張り、直ぐに曲げられる。 顎を俺の肩にのせて、ビクビクと体を震わせた。 吐精が終わった鈴口を、割れ目に沿って指でなぞる。 するとまたユウの体が跳ねた。 「だから、今日はあれでOK。 もう気にしないで、いつもみたいに"ちょーだい"しちまえよ」 「……ん」 息を弾ませながら、ユウが考えている。 それからのろりと顔を上げ、涙で一杯になった瞳で俺を見た。 「ちょーだい、していいの?」 「だから、さっきからそう言ってんだろ」 あまりにもウダウダとしつこいから、デコピン を一発お見舞いしてやる。 するとユウが、初めて嬉しそうに笑った。 そうだよ。 辛気くさい顔より、お前はそういう間の抜けた顔の方がずっといい。 つられて端が緩んだ唇に、ユウが軽く口付けてきた。 そして、やっと"いつもの"言葉がその口から出たんだ。 「カイ、ちょーだい……」 「何照れてんだよ、バーカ」 「えへへ」 ユウは壁に手をついて、尻を突き出す。 精子で滑りやすくなった指でそれを撫でながら、双丘を割り開く。 既に縁が盛り上がっている後孔は、ツンとつついただけでおれの指を食らおうと吸い付いてきた。 「ンン……っ」 ユウの鼻から抜けるような声と共に、指が飲み込まれて行く。 掻くように中を探ると、うねうねと内壁が動いているのがわかった。 使い慣らされたやわらかなそこは、簡単に二本目、三本目の指を受け入れる。 拡げながら愛撫していると、さっき射精したばかりだというのにユウのペニスがまた勃起し始めた。 若いって凄いな。 何となくそんなことを思いながら、ユウの耳を食む。 そして息を吹き掛けて舐め、俺のものを後孔に押し当てた。 「……っ」 そして一気に貫く。 ユウは目を見開き、伏して、大きく息を吐き出す。 腰を掴んでピストンしてやると、喉を仰け反らせながら感じている。 ぎゅうぎゅうに締め付けてくる後孔は、突くたびに口が捲れて真っ赤な内壁が見え隠れしていた。 「ああん、カイ、ん、んん」 「気持ちいいか?」 「うん、うん……ひぁ、あ!」 「今日は好きに感じていいぞ。 ご褒美だからな」 「んん、そこ、ああ……!」 ユウの好きなところを積極的に突いてやる。 いつもはついつい苛めてしまうのだが、今日は我慢をした。 少しでも気が休まるなら、それでいいと思ったんだ。 ユウが全身を震わせた。 射精は無かったが、達したようだった。 くたりと力が抜けた腰を引き上げて、 「ほら、こんなもんじゃ足りないだろ?」 と耳打ちをする。 ユウは喉を鳴らした後、コクコクと何度も頷いた。 ーーーそんなわけで、風呂から上がる頃には、俺たちはすっかりクタクタだった。 ユウのやつなんか、ソファーでぐったりしている。 そりゃそうだ。 俺は三度だが、ユウは数えきれないくらいイっていたからな。 スポーツドリンクを渡してストローで吸わせる。 余程喉が乾いていたのだろう。 ユウがゴクゴクと音を立てて飲んでいるのを横目に、俺は一緒に持ってきた箱を開いた。 それに珍しく興味を持ったのか、ユウは俺の背中にのし掛かりながら肩越しに覗き込んでくる。 「……重い」 「キラキラァ、きれーい」 ユウは目を輝かせながら箱の中身を指差している。 「だろ」 「これ、なあに?」 「ライターだよ」 箱の中に入っている沢山のライターから一つ身繕い、ユウに手渡してやる。 光に当てるとケースが青銀に光って見えるガスライターだ。 そういえば、ユウの髪の色によく似ている。 「店で使ったのは、使い捨てだから小さかっただろ。 だから火が着けにくいし、近くて怖い気がするんだよ」 ユウから一度それを引き取り、蓋を開けて火をつけて見せる。 シュボッという音と共に、肩が軽くなった。 見返すと、ユウは二歩下がり青ざめた顔でこちらを見ている。 昼間の店での様子と同じだ。 「火が怖いか」 ユウは頷く。 「何で怖いんだ?」 レバーで炎の高さを調整しながら、ユウに尋ねてみる。 こういう時に大切なのは、変に改まらないことだ。 ユウは普通の会話の一端として聞くと、ポロリと話してくれることが多い。 「いたい、から」 少しの間をおいて、狙い通りにユウがポツリと言った。 「……熱いじゃなくて?」 「いたい。 ぼうをね、やいて、ごしゅじんさまにあげるの。 そしたら、ごしゅじんさまは、それで、ユウをぶつの。 ぶたれたとき、すごくいたい。 でも、ぶたれたあとも、ずっといたい」 「そんな事までされていたのか」 「わるいこは、そうだよ」 「……」 あまりにも壮絶な体験談に、思わず言葉を失った。 沈黙が気まずくてわざと音を立ててライターよ蓋を閉じる。 さて、何と言いくるめたものか。 カチン、カチンと音を立てて蓋を開け閉めしながら考える。 すると、ふとテーブルのはじっこにあるユウの食べかけのおやつが目に入った。 マシュマロか、丁度いい。 キッチンに赴き、フォークを一つ取ってくる。 それにマシュマロを刺してユウに持たせると、またライターに火をつけた。 震える手首を押さえながら、ゆっくりマシュマロを炙ってやる。 表面に焼き目がついていくそれを、ユウは不思議そうに見ていた。 ある程度のところで火を消して、冷めるのを少しだけ待つ。 それから食べてみろと顎をしゃくったが、ユウは眉を寄せたまま硬直していて動かない。 仕方なく手首をつかんでフォークを口に誘導してやる。 そして下唇にちょいとそれをつけてやると、やっと口を開いてくれた。 少し熱かったのか、マシュマロを食む瞬間、はふっと息が漏れる。 一方で、直ぐにユウの顔が明るくなった。 「お前が知っているのは、正しい火の使い方じゃない。人を不幸にする悪い使い方だ。 本来火は、人を幸せにするために使うんだ。 例えばこんな風に、食べ物をより美味くするため、とかさ」 もう一つのマシュマロを炙ってやりながら、努めて穏やかにユウを諭してやる。 さっきのが余程焼美味かったのか、先程とは違ってその視線はマシュマロに、そして火に釘付けだ。 「要は使い方だ。 これは美味しいものを作るための道具。 そう思えば、怖くないだろ。」 もう一つを口に放り込んでやり、ユウにライターを手渡してやる。 「ここのホイールを回すんだ。 店のと基本的にやり方は同じ。 炎の調整はこのレバー。 ま、ここは使わずに済むようにしといてやったけどな」 やり方を一つずつ説明をすると、さっきとは打ってかわって興味津々といった様子でユウがライターに手を伸ばしてくる。 マシュマロに完全に釣られたな、単純なやつ。 けれども目論み通り、大成功だ。 「やってみな」 「……」 ユウは、両手でライターを持ちながらふうと息を吐いた。 それから真剣な面持ちで、ホイールを回す。 シュボッという小気味良い音が響き、ライターから炎が上がった。 俺は小刻みに震えるその腕を支えてやりながら、自分の方へと引き寄せる。 そして、咥えておいた煙草の先っぽを炎につける。 もくもくと上がり始める白い煙。 それを見上げているユウの頭を撫でながら、俺は立ち上がった。 「ハイ、ごちそーさま。 じゃ、吸ってくる」 ユウは、火がついた俺の煙草を見ながら嬉しそうに口元を綻ばせた。 「それ、やるよ」 ライターを見つめていたユウが、パッと顔を上げる。 「あ、でも練習は俺がいる前だけにしてくれよ」 そしてまた嬉しそうにライターを見つめ始めたユウの背中にそう言い残して、ベランダに出た。 煙を肺に取り込みながら、ユウが火をつけてくれた煙草を吸う。 その味は、何故だかいつもより美味い気がした。

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