2 / 9
第2話
「いいから早く見てくれ」
イライラした様子の帝人に促され、仕方なく春馬はロックを解除し、言われたメールを探す。帝人の秘書である薮下のアドレスは春馬も知っていたので、受信順に探してみるがどれも既読になっている。
「まだ届いてないみたい」
不要な情報を目に入れたくなくて、素早くホーム画面に戻す。目についた件名は仕事に関わるものばかりだった。もちろん春馬が確認したのは今日の受信分だけで、本文を読んだわけでもない。もしかすると遊びの誘いや、春馬にとっては決定的な証拠となり得るものがあったかもしれない。
見なくて済んだとホッとした春馬だったが、そんな春馬の気持ちを知らぬ帝人は「急ぎの件だから、届き次第知らせてくれ」と、シャワーを浴びに行ってしまった。
携帯と共に取り残された春馬は、仕方なく携帯を気にしながら夕飯の支度に取りかかったのである。
熱いシャワーを頭から浴びながら、帝人は客観的に己の身体を見ていた。
今年42歳になった帝人だが、中年太りとは無縁の二十代の頃と変わらぬ体型を保っている。180cm を越える長身に、手足の長いすらりとしたスタイルに未だにモデルをしてみないかと誘われることもある。
広い胸板にも六つに割れた腹筋にも、重すぎないしなやかな筋肉が適度についているし、引き締まったウエストから繋がる、双丘は重力に負けず互いに同じ形で納まっている。忙しい日々の中でも週に一度はジムに通い、年下の恋人にオジサン呼ばわりされないよう気をつけて来た。
しかし努力してスタイルを保つ事は出来ても、一年に一つずつ確実に年はとって行く。己が若い頃の年の差は、相手を甘やかす事の出来る包容力になったが、恋愛から家族愛に落ち着いていく年代になった今、大切に思う相手に普通の幸せを与えられない現実は、ただ、不甲斐なさを強調するためだけのものでしかなかった。
ともだちにシェアしよう!