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第3話
汗を流し春馬が張ってくれた湯につかる。今ごろ春馬は携帯をチェックしているだろうか?いや春馬の事だから、それはないと断言できる。だからこそわざわざ薮下から急ぎのメールが入ると嘘をつき、着信したメールを春馬が見るよう仕向けたのだ。
「時間通りに送ってくれよ、スティーブ」
帝人は昨晩のやり取りを思い出していた。
スティーブは帝人の留学時代の悪友で、今は仕事上での付き合いもある。
今回の出張も彼と共同開発している案件について、委託先法人に問題が生じたからだった。幾つかの代案を提示することで問題は解決したが、その後スティーブと語らう中で帝人は春馬との仲を考えさせられた。
帝人と同じようにスティーブにも長年付き合った男性のパートナーがいた。スティーブより年上で婚姻歴のある人だった。子供もいたが本質は同性愛者であったため、結婚生活はうまくいかなかったらしい。数年前から調子を崩し介護を必要とする状態になっていた。最初の頃はパートナーもスティーブに負担を掛ける事を良しとせず、ヘルパーを雇い復帰に向けリハビリに臨んでいたらしい。しかし、体は思うように戻らず、己に自身を持てなくなった彼は、若い恋人が自分を捨てるのではないかという妄想に囚われていった。
スティーブが仕事に行く事さえ許さず、ヘルパーを解雇し身の回りの全てをスティーブにさせた。尽くすことは苦労とも思わなかったスティーブであったが、疑心暗鬼のまま恋人である自分を疑い貶める言葉や行為に、少しずつ精神を病んでいった。
朗らかで、いい意味でヤンキーだった彼の学生時代を知る帝人にとって、その当時の彼の様子に胸を痛めたものであった。仕事に出ることが出来なくなったスティーブのために、帝人は在宅で出来る仕事として、現地法人の斡旋を依頼した。それまでに培ったスティーブの人脈を活かし、帝人の望む法人を引き合わせるだけの仕事だったから、彼が出掛けるのは最初の一度だけで済んだし、それ以降は帝人自身ががセッティングをした。
そんな生活が数年続き、今年始めスティーブのパートナーは回復する事なく天国に召された。死の間際、スティーブに感謝を述べ、幸せになってほしいと言い残したらしい。
帝人は年明けの忙しいスケジュールを無理矢理調整し葬儀に参加したが、スティーブのやつれた顔を見るだけで、話を聞いてやる余裕はなかった。気にはしつつも、お互い忙しくしており、この出張が久々の対面となっていたのである。
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