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第5話

「何、これ…」  帝人に強く言われていたから、届いたメールが薮下からのものだと思い込んでいた。とにかく、内容を伝えようと本文を開いたら、予想もしない内容に全身が凍えたように固まってしまった。 「愛しているわ、ダーリン」そんな言葉で始まった英文を、意識しなくても読み下せる自分が、恨めしかった。   翻訳家として仕事をしていれば、仕方のない事であったのだけれど。 「HARUと別れる決意は出来たのよね。お腹の子も大きくなってるし、早くこっちで住む段取りをつけてね。I’m in love with you.」  夕食の支度をしていた春馬は、着信音が鳴ると同時にメールを開いていた。秘書である薮下からのメールだと思っていたからだ。  早くこの状況から逃げ出したいと思っていたせいかもしれない、よく確かめもずに開いてしまったメールは、浮気云々では済まされない内容であった。 「帝人さんに子供…」  帝人が女性と関係を持っていた事は驚きだが、その間に子供が出来たのなら、明らかにそれを邪魔しているのは自分の存在だ。 「ああ、ここにいちゃダメだ」  思い立った春馬の行動は素早かった。  財布・携帯・パスポート、それだけを手に取ると音もたてず玄関に向かう、足に馴染んだスニーカーを履いて部屋を振り返った春馬だったが、靴箱の上に飾ってあった写真を目にし涙が溢れる。 「さよなら、帝人さん」  その写真たてを握り締め、春馬は姿を消した。

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