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第10話

「えっ!? 隊長、何て言ってたんだ?」 「『どうも成績が落ちているようだ』……って。手合わせの勝率も下がり気味みたいだし、何かあったんじゃないかって心配してたよ」 「いや、別に何も……」 「まあ、お前のことだから訓練をサボっているわけではないんだろうけど。でも、手合わせの結果はいろんな意味で正直だからね。集中できてないんでしょ?」 「う……」 「なんで集中できないの?」  じっ……と青い瞳に見つめられる。  心の奥まで見透かされそうで、アクセルはふいと目線を反らした。そしてごまかすようにこう言った。 「……見学者がうるさくて。近くでキャーキャー騒がれたら、まともに訓練なんかできないだろ」 「ああ、なるほどね。アクセルは今モテモテだからなぁ」 「モテてどうするんだ。煩わしいだけじゃないか。俺は全然興味ないのに、訓練場にも押しかけて来て……」 「ははは、確かにお前の言い分もわかるかも。私も昔は素振りするだけでキャーキャー言われたものだったな」 「今だって言われてるだろう?」 「そうでもないかな。若い子はより若い方に目移りするみたいだから」 「なんだそれ。見る目のない奴らだな。兄上はいくつになっても美しいのに」 「はは、ありがとう。お前はいくつになっても可愛いね」 「……そんなこと言うの、兄上だけだ」  気恥ずかしくなって、また目を反らす。  普通に会話しているだけならまだいいが、最近フレインと一緒にいるとドキドキすることが増えた。町一番の美女に口説かれても何とも思わないのに、ちょっと褒められただけで顔が赤くなってしまう。  ――ただの憧れじゃなかったのか……。  幼い時は、純粋に憧れているだけだった。早く兄のようになって、一緒に戦場に立ちたいと思っていた。  でも……最近、それだけではない欲望が芽生え始めている。  もっと兄上に触れたい。もっと自分を見て欲しい。今でも十分可愛がってもらっているが、本当はもっと深い愛情が欲しい。肉親に向けるものじゃなくて、もっと違う種類の愛情が。  だけどそれは……。

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