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第11話
「しかし、集中できないのを人のせいにするのはよくないね。ちゃんと集中していれば周りの雑音なんて耳に入らない。集中できないんじゃなくて、お前が集中していないんだ」
と、フレインに断言される。
「他にもっと集中できない理由があるんでしょ? 悩み事があるなら、お兄ちゃんが聞いてあげようか?」
「っ……!」
思わぬ言葉に息が詰まった。ぐっ……と奥歯を噛み、手のひらを握り締める。
――そんなの、言えるわけない……!
実の兄に恋をする。それは当時の倫理からすると、絶対にあってはならないことだった。
近親相姦は当然のことながら、同性同士の恋愛もタブー視されていた時代である。「兄上のことが好きなんです」なんて、口が裂けても言えなかった。
それでも、おおらかな兄なら告白しても笑って済まされるかもしれないが、その後よそよそしい態度をとられる可能性はある。下手したら二度と口を利いてくれなくなるかもしれない。
それは――アクセルにとっては、普通に死ぬより辛いことだ。
「……何でもない。悩みなんてないし」
血を吐くような思いで、本心とは真逆のことを伝えた。正直、嘘は好きではなかったが、ここで真実を暴かれるよりは余程マシだと思った。
「俺……これからはちゃんと集中して訓練に臨むよ。兄上に心配されないよう、もっと強くなる。だから……」
「…………」
フレインは無言でこちらを見つめた。少し悲しげな顔をしていた。
やがて小さく息を吐くと、彼は呟くようにこう言った。
「……そうだね。お前はまだ私に追いついていない」
「……!」
「早く強くなりなさい。お前と一緒に戦えるのを楽しみにしているよ」
そう微笑んで、兄はその場を立ち去って行った。
その背がだんだん遠ざかっていくのを、当時のアクセルはただ見ていることしかできなかった……。
◆◆◆
それから一年後――アクセルが十六歳の時。兄・フレインは出陣した戦場で瀕死の傷を負った。
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