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第12話※

「兄上! 兄上……っ!」  運び込まれた兄は酷い有様だった。右脚は太ももから切断され、両肩から脇腹にかけて抉れたような十字傷がついている。細かい切り傷は数え上げればキリがない。呼吸も荒く、顔も青ざめていて、傷口からはどくどくと血が噴き出していた。  この傷では助からないのは明白だった。 「そんな……嫌だ……! 兄上……!」  兄が重傷だと聞いて、アクセルは戦場からすぐさま駆けつけた。当時のアクセルは実戦経験が少なかったため、前線ではなく後方に配備されていたのだ。 「あ……アクセル……?」  血まみれのベッドに駆け寄ったら、フレインが目を開けてこちらを見た。 「こんなところで、何してるの……。持ち場を離れちゃ、ダメじゃないか……」  一生懸命右手を持ち上げようとするので、アクセルは両手でその手を握り締めた。大量出血のせいか、既に指先が冷たくなっている。  救護班は空気を読んで、静かに席を外してくれた。  フレインが微笑みながら呟く。 「……いや……来てくれてよかった……」 「兄上……何故こんなことに……」 「はは……ちょっとやらかしてしまって……。油断してたつもりはなかったんだけど……今回は、相手が悪かった……かなぁ……」  そんなとんでもない敵がいたんだろうか。兄にここまでの深手を負わせる奴が……。 「……アクセル……」  フレインの指先が目元を拭った。少し呆れたように言われてしまう。 「また泣いてるの……? お前はいくつになっても泣き虫だね……」 「な、泣いてなんか……」  そう強がってみたが、どうしても涙が止まらない。腹の底から悲しみが溢れてきて、冷たい雫が頬を伝い落ちる。  アクセルは割れた声で訴えた。 「……兄上と死に別れると思うと、止まらないんだ……」 「…………」 「俺……まだ兄上に追いついていない……。兄上と同じ戦場に立っていない……。ここでお別れなんて絶対に嫌だ……。俺はもっと、兄上と一緒にいたいのに……っ!」  愛しい兄の手を握り締める。力が抜け、だんだんと温かさが失われていくのがよくわかった。残された時間はあと僅かだ。  すると、フレインが柔らかな微笑みを浮かべた。

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