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第13話

「大丈夫だよ……。お前が強くなれば、きっとヴァルハラに招かれる……」 「え……っ?」  戦場で勇敢に戦って命を落とした戦士は、最高神オーディンの眷属――エインヘリヤルに選ばれる。ヴァルハラに招かれ、終わらない戦いと饗宴を楽しむことができる。  それは戦士たちにとって最も栄誉あることだった。 「……強くなりなさい、アクセル。私は一足先に、ヴァルハラで待ってるから、ね……」 「兄上……!」  フレインが静かに目を閉じていく。手からも完全に力が抜けた。呼びかけても、もう反応することはなく、ただ無言で横たわっているだけだった。 「……兄上……」  息を引き取った兄の唇に、そっと自分のものを重ねる。初めてのキスは、強烈な血と涙の味がした。あまりに悲しい味を舌に感じ、それでまた涙がこぼれた。 「兄上……愛してる」  許されない言葉だったが、言わずにはいられなかった。  もう決して届かないとわかっていても……。 ◆◆◆  それからアクセルは、しばらく自分の部屋に閉じこもって塞ぎ込んだ。息を吸ったり吐いたりすることさえ辛くて、このまま死んでしまおうかと思ったくらいだ。  最早人間としての「生」に未練はない。フレインの死と共に、アクセルの中の何かも死に絶えたのだ。  けれど、ヴァルハラに招かれるためには戦場で死ぬことが大前提である。病死や自死などは最も不名誉なことで、オーディンの戦士としては論外なのだ。  ――ヴァルハラで待ってるからね……。  兄の墓前に立っていたら、大好きな声が蘇ってきた。  この世にフレインはいない。兄・フレインは戦場で死んだ。  でもヴァルハラに行けば――オーディンの戦士に選ばれれば、また……。 「……わかったよ。俺は必ずヴァルハラに行く。だから、それまで待っていてくれ……」  もう振り返ることはなかった。ヴァルハラを目指して、ただ真っ直ぐ駆けるのみ。  愛しい兄に、もう一度会うために――。  以降、アクセルは何かに憑りつかれたように戦場に赴く。  そして兄を亡くした十一年後、同じ戦場で命を落とした。享年二十七歳だった。これもまた兄と同じだった。

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