14 / 1991

第14話

 明け方、アクセルは棺の中で目を醒ました。自分で蓋を開け、ゆっくりと身体を起こす。  傷はすっかり完治していた。もれなく衣装も綺麗な状態に戻っていたが、目尻に涙の跡が残っているのに気付いた。どうやら眠りながら泣いていたらしい。  ――これでは、また兄上に馬鹿にされてしまうな……。  お前はいくつになっても泣き虫だね……と。全く情けないことだ。 「…………」  アクセルはさっと棺から出て、オーディンの館を後にした。昨日の試合後から丸一日眠っていたようで、外はすっかり日が高くなっていた。  それにしても長い夢だった。人間だった頃の思い出を、まとめて見ていたような気がする。先輩戦士に聞いた話だが、ヴァルハラに来て間もない新参者は、人間だった頃の記憶をよく夢に見るそうだ。  かくいうアクセルもここに来てから三ヶ月しか経っていないから、棺に入ればよく夢を見る。その夢はいつもフレインが死んで終わるから、正直あまり見たくなかった。  ――同じヴァルハラで暮らしているのにな。  ランキングごとに住む場所が分かれているため普段はなかなか会えないが、夢の中でしか会えない相手ではないのだから、今更……と思う。  フレインと一緒に暮らせるようになれば――兄の隣に立てるようになれば、いつでも本物に触れることができる。夢なんて見る必要ない。  そう思って、ここに来てからずっとがむしゃらに努力してきたけれど……。  ――さすがに三ヶ月では、あの高みに到達することはできないか……。  5000人以上もの戦士が生活しているヴァルハラでは、戦力によるランキングが存在している。毎日行われる「死合い」がその基準になっていて、勝てばランクが上がり、負ければランクが下がるのだ。  ちなみに、兄・フレインの戦士ランキングは三位。戦士全員の憧れである、トップセブンの実力者だ。  一方のアクセルは最近ようやく100位以内に入ったばかり。5000人の中の100位だと思えばかなり上の方なのだが、目標にはまだまだ遠い。  ――最低でも、七位以内には入らなければ……!  早速鍛錬でもしに行くか……と思い、自分の武器を取りに行こうとした時。 「おーい、アクセル!」  遠くから赤毛の少年が走ってきた。  自分と同じタイミングでヴァルハラに招かれた戦士・チェイニーだ。さしずめ「同期」というところか。

ともだちにシェアしよう!