16 / 1992

第16話

「誰だっけ?」 「…………は?」 「ごめんね。人の顔と名前を覚えるのはどうも苦手で。新人戦士なのはわかるんだけど」 「……!?」 「まあとにかく、今後はむやみにここへ足を踏み入れてはいけないよ。自由に出入りしたければ、ランキングを上げて出直してきてね」  そう言ったきり、兄はあっさりと背を向けてしまう。 「ちょ……!」  あまりに他人行儀な態度に、アクセルは頭が真っ白になった。あの兄が俺の事を忘れるはずがない。これは何かの間違いだ。そう思った。 「ちょっと待ってくれ兄上! わからないとか嘘だろ!?」 「…………」 「俺、アクセルだよ! あなたの弟のアクセルだ! 覚えてるよな!?」 「くどい」 「っ……!?」 「しつこい人は嫌われるよ。私と対等に会話したかったら、もっとランクを上げて出直して来なさい」  青い瞳がこちらを見据える。その目に温かさはなかった。それどころか、自分より明らかに下の者を見る目――侮りや蔑みといった感情が含まれていた。  ――違う……!  こんな目を向けて欲しかったのではない。こんな風に見下されたかったわけではない。  兄が亡くなって十一年、ヴァルハラだけを目指して努力してきた。愛する兄にもう一度会いたくて、そのために無我夢中で腕を磨き、オーディンに認められるくらいの戦士になったのだ。  それなのに……。 「兄上ぇぇっ!」  闇雲な感情が爆発し、気付いたらアクセルは兄・フレインに斬りかかっていた。一気に間合いを詰め、無防備な背に両手の小太刀を振り下ろす。 「おやおや。これはまた血の気の多い新人だ」 「っ!?」  ところが、勢いよく振り下ろした小太刀は、兄の愛刀の鞘に受け止められてしまった。  抜刀すらしていない相手に太刀筋を読まれたことに、少なからず衝撃を受ける。 「うん、わかった。私に斬りかかってきた度胸は認めるよ」  ヒュッ……と、目の前を風が切った。一瞬、何が起こったかわからなかった。  一拍遅れて、左腕に焼けるような痛みが走る。 「あっ、が……!」  気付いたら、自分の左腕が地面に落ちていた。その手には小太刀が握られたままだった。

ともだちにシェアしよう!