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第16話
「誰だっけ?」
「…………は?」
「ごめんね。人の顔と名前を覚えるのはどうも苦手で。新人戦士なのはわかるんだけど」
「……!?」
「まあとにかく、今後はむやみにここへ足を踏み入れてはいけないよ。自由に出入りしたければ、ランキングを上げて出直してきてね」
そう言ったきり、兄はあっさりと背を向けてしまう。
「ちょ……!」
あまりに他人行儀な態度に、アクセルは頭が真っ白になった。あの兄が俺の事を忘れるはずがない。これは何かの間違いだ。そう思った。
「ちょっと待ってくれ兄上! わからないとか嘘だろ!?」
「…………」
「俺、アクセルだよ! あなたの弟のアクセルだ! 覚えてるよな!?」
「くどい」
「っ……!?」
「しつこい人は嫌われるよ。私と対等に会話したかったら、もっとランクを上げて出直して来なさい」
青い瞳がこちらを見据える。その目に温かさはなかった。それどころか、自分より明らかに下の者を見る目――侮りや蔑みといった感情が含まれていた。
――違う……!
こんな目を向けて欲しかったのではない。こんな風に見下されたかったわけではない。
兄が亡くなって十一年、ヴァルハラだけを目指して努力してきた。愛する兄にもう一度会いたくて、そのために無我夢中で腕を磨き、オーディンに認められるくらいの戦士になったのだ。
それなのに……。
「兄上ぇぇっ!」
闇雲な感情が爆発し、気付いたらアクセルは兄・フレインに斬りかかっていた。一気に間合いを詰め、無防備な背に両手の小太刀を振り下ろす。
「おやおや。これはまた血の気の多い新人だ」
「っ!?」
ところが、勢いよく振り下ろした小太刀は、兄の愛刀の鞘に受け止められてしまった。
抜刀すらしていない相手に太刀筋を読まれたことに、少なからず衝撃を受ける。
「うん、わかった。私に斬りかかってきた度胸は認めるよ」
ヒュッ……と、目の前を風が切った。一瞬、何が起こったかわからなかった。
一拍遅れて、左腕に焼けるような痛みが走る。
「あっ、が……!」
気付いたら、自分の左腕が地面に落ちていた。その手には小太刀が握られたままだった。
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