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第17話※

 左腕からボタボタ血液が流れていく。生理的な脂汗が滲み、みるみる顔が青ざめてくる。  堪えきれず、思わず地面にうずくまった。身体の痛みはもちろんだが、それと同じくらい胸が痛んだ。  ――見えなかった……!  いつ抜刀したのかわからなかった。気付いたら斬られていた。全く歯が立たなかった挙句、わけもわからないうちに武器ごと腕を落とされたのだ。  いや、それより何より――あの優しかった兄が、全く躊躇せず弟に武器を向けてきた。それが一番ショックだった。腕だけでなく、別の何かも落とされてしまった気がして、アクセルは目の前が真っ暗になった。 「今回はその度胸に免じて、腕一本で勘弁してあげようね」  顔色一つ変えず、フレインが太刀を鞘に納める。そして千切れた左腕を一瞥し、にこりと微笑んだ。 「そのままじゃ困るだろうから、後で泉に行ってくるといいよ。ランク上げ、頑張って」  何事もなかったように立ち去っていく。 「…………」  言葉を失い、立ち上がることもできず、半ば放心状態になっているアクセルに、見回り組の男たちが憐れみの声をかけてきた。 「……フレイン様はキレると怖いから、あまり怒らせない方がいいぞ。泉に案内してやるから、早くそこ行きな」  その後のことはほとんど覚えていない。「オーディンの泉」には行ったと思うが、あまりにショックすぎて心がぽっきり折れてしまったのだ……。  チェイニーがやや呆れたような表情になる。 「ひっどいよなぁ、フレイン様。弟を忘れた挙げ句、腕まで斬り落としちゃうなんてさ。愛しのお兄様、生前からそんなドSだったわけ?」 「いや、そんなことは……。まあ、人の顔と名前を覚えるのは苦手だったけどな……」  そう言いつつ、思い出したら腹が立ってきた。一途に兄だけを追いかけてきた身としては、あの仕打ちはどうしても納得できなかった。  他の人を忘れるならまだしも、何故よりにもよって弟を忘れるのか。兄上にとって俺はその程度の存在なのか!? 俺は一日たりとも兄上を忘れたことなんてないのに!

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