27 / 1985

第27話(フレイン視点)

 のどかな昼下がり。フレインはヴァルハラの図書館横のスペースで、一冊の書物を眺めていた。  今日の死合いはほとんど一瞬で終わってしまって、夕方までやることがない。狩りに出掛けるのも一人じゃつまらないし、家に帰ったところで惰眠を貪ることになるだけだ。  それならばと思って、ヴァルハラの図書館に来てみたのだが……。  ――ここの本、小難しい歴史書が多いんだよねぇ……。  ヴァルハラは「アース神の世界(アースガルズ)」のほんの一部で、最高神・オーディンの娘たち――ヴァルキリーが、戦士たちを管理し秩序を守っている。  毎月出される掲示板のランキングや仕事内容は、全部ヴァルキリーたちが決めたものだ。  ちなみに、天上には同じく「ヴァン神族の世界(ヴァナヘイム)」、「光の精の世界(アールヴヘイム)」という二つの世界があって、特にヴァン神族とは人質を交換し合って和議を結んでいるという。  ……とまあ、ここまでが暇つぶしに読んだ書物の内容だ。  が、はっきり言って、フレインはその辺りの細かい事情にはさほど興味がない。周りがどうであれ、自分はヴァルハラで毎日楽しく過ごせているのだから、それ以上のことはどうでもいいのだ。ヴァルハラ万歳。  ――とはいえ、「知りませんでした」じゃ済まないこともあるしね……。  天上での理は地上とは全然違う。人間だった頃の常識が通用しないこともたくさんあるのだ。  フレインも十一年前に初めてヴァルハラに来た時は、いろいろ戸惑うことがあった。ランキングを盾に、嫌がらせやセクハラをしてくる戦士も大勢いた。  下界では男が男に手を出すのはむしろタブーだったのに、ここでは割と当たり前に行われていると知って衝撃を受けたものだ。  ――そう言えばアクセルは、嫌がらせには遭ってないんだろうか。  ふと、真面目で一途な弟のことを思い出した。あの子は結構ピュアなところがあるから、あまり変なことをされると泣いてしまいそうだが……。 「あーれ、フレイン様。珍しいですね、あなたがここにいるなんて」  不意に声をかけられ、フレインは顔を上げた。アクセルとよくつるんでいる赤毛の少年だ。確か名前は……。 「チェイニーです。何度かお話したことあるんですが、覚えてます?」 「ああ、そうだったね」  笑ってごまかしたが、実は覚えていなかった。顔は見覚えがあっても、どうも名前が出て来ない。

ともだちにシェアしよう!