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第30話

「いえ、それは俺が捕ってきた獲物じゃないので……」 「誰が捕ろうと、狩っちまえば同じ肉だよ。遠慮せずにもらっとけって」 「はあ、しかし……」 「ランゴバルト様にキレられる方が怖いんだよ。できるだけ波風は立てない方がいい。今日のところはこれでごまかそう。な?」 「…………」  子供のイノシシをドサッと地面に置かれ、アクセルは迷った。  本当はこういうズルをするのは好きではないが、今回は相手が相手だ。波風を立てない方がいいのは理解できる。自分のせいで他の三人までとばっちりを受けたら申し訳ない。 「……わかりました、いただきます」  仕方なくアクセルは、そのイノシシを受け取ることにした。  ――今度は、もう少しちゃんと指導してくれる隊長と狩りに行きたいものだ……。  もちろん、それが兄・フレインなら申し分ないが。  その時、重い鎧の音が茂みの向こうから聞こえてきた。ずしん、ずしんという音と共に、ランゴバルトが現れた。彼の長戟には狩ってきたイノシシが突き刺さっている。  ――思ったより小さい……?  ランゴバルトのことだから、もっと巨大な獲物を狩ってくるかと思ったのだが。  もらったイノシシ、大きさはセーフだろうか……と今更ながら心配になる。 「ふん、その程度か」  ランゴバルトがこちらの足元を一瞥する。彼は長戟に刺さっているイノシシを引き抜いて落とすと、アクセルに向かって言った。 「そこの新人。罠の様子を見に行ってこい」 「は……。罠、ですか」 「そうだ。俺が100メートルごとに仕掛けておいた。それで獲物がかかったらこちらに(おび)き出せ」 「は……。承知しました」  そう答えつつ、アクセルは茂みの中に入っていった。  ――承知しました、と言ったものの……。  正直、言われていることの意味がわからなかった。  罠を仕掛けた……までは、まあいい。でも、「獲物がかかったらこちらに誘き出せ」とはどういうことだろう。獲物を回収するんじゃないのか。  もっと丁寧に教えて欲しかったが、聞き返せる雰囲気でもなかったため、素直に承諾してしまったけれど……。  ――だいたい、罠がどんな罠かも教えてもらってないし。  足元に隠れるくらいの罠だったら見つけづらいな……と思っていたら、突然視界にとんでもないものが飛び込んできた。アクセルは思わず目を剥いた。

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