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第31話

「なんだこれは……!」  殺されたイノシシの子供が大木に吊されている。しかも首と胴体が切断されており、その血を(なす)り付けるように幹が汚されていた。  嫌な予感がして100メートル先も確認してみたのだが、案の定、同じような罠が仕掛けられていてさすがに気分が悪くなった。  ――これが罠なのかよ……。  ランゴバルトは一体何を考えているのか。こんなのただの殺生――もっと言えば悪ふざけではないか。一体何のためにこんなことをしているのか、さっぱり理解できない。  さすがにこれは一言くらい意見した方がいいんじゃないか……と思いかけた時、 「……!?」  ずん……と、大地を揺るがすような地響きが伝わってきた。一瞬、地震か何かかと思った。  ――何だ……!?  慌てて抜刀して前方に目をやる。イノシシの血の臭いで鼻が利かなかったが、凄まじく巨大な生き物の気配は感じていた。  これは……こいつは、まさか……。 「っ……!」  周囲の小木を薙ぎ倒し、巨大なイノシシが姿を現した。  全長は一〇メートル……いや、十五メートルはあるだろうか。高さも二、三メートルはあり、鋭い牙は四本も生えている。  アクセルは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。自分一人でどうにかできる相手ではない。  何かを考えている余裕もなく、身を翻して元の広場まで走った。  ――このためだったのか……!  あの残虐な罠は、全てこいつを(おび)き出すため。ランゴバルトの意図がようやくわかった。  わかったが、これはリアルに命の危機だ。死合い中ならともかく、こんなところで死んだらどうなるかわからない。死体を食われでもしたら復活できなくなる。 「くっ……!」  背後から突進してくる大イノシシを横に跳んで(かわ)す。周囲の木や岩を砕きながらこちらに迫ってくるイノシシは、さながら巨大砲弾のようだった。正面衝突したらそれだけで即死しそうだ。 「っ……!?」

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