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第32話
横に避けた途端、イノシシが大きく首を振った。
慌てて抜刀したが完全には間に合わず、堅い牙が身体にぶつかった。アクセルは軽々と吹っ飛ばされ、数メートル先の大木に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
食いしばった歯から呻き声が漏れる。
どうにか受け身はとったものの、内臓まで届くような衝撃があった。中途半端に防御した小太刀にヒビが入ってしまった。
だが、ダメージに怯んでいる余裕はない。
「……!」
向きを変えたイノシシがこちらに突進してきた。アクセルはその場から飛び退いた。一瞬後には自分がいた場所がイノシシに踏み潰されていた。
もうあれこれ考えている場合じゃない。立ち止まったら死んでしまう。アクセルは無我夢中で森の外に走った。
ようやく開けた場所に出たら、他の戦士たちが揃って目を剥いた。
ただ一人ランゴバルトだけはニヤリと口角を上げ、武器を持って立ち上がった。
「やっと出てきたか。雑魚ばかりで退屈していたところだ」
長戟をぶんぶん振り回し、突撃してくるイノシシに向かっていく。
「俺を楽しませろ!」
ランゴバルトがイノシシとぶつかり合った。その衝撃で空気がビリビリ振動した。あんな化け物と正面から衝突して吹っ飛ばされないだけでも十分すごい。
――でもあの人、ホントにふざけてる……!
強いのはわかる。普通のイノシシでは物足りなくなるのも理解できる。
だからと言って、あんな大イノシシをわざと誘 き出すなんてどうかしてるとしか思えなかった。
大量の子供を殺したのもそうだし、周りを危険な目に遭わせたことも腹が立った。アクセルは運よく死なずに済んだが、あれで打ち所が悪かったら即死だった。
ランゴバルトのことだから、仲間が死んだところで遺体は回収してくれなさそうだし……。
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