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第35話

「!? フレインか……!」 「おや、まだ正気は保っていたか」  にこりと微笑み、ランゴバルトの武器を打ち上げる。そして彼の鎧を蹴り、強制的に距離をとらせた。 「イノシシ神を誘き出したって聞いたけど、こんな狩りをしていたとは驚きだ。狩りの獲物(ハンティング・トロフィー)としては最高の贅沢だけど……これ以上はだめだよ。わかってるよね?」 「……ちっ」  大きく舌打ちすると、ランゴバルトは血に濡れた長戟を担ぎ上げた。 「興が削がれた。俺は帰るぞ」 「おや、狩った獲物はどうするんだい?」 「雑魚どもに運ばせろ。俺は知らん」  そう言い捨てると、彼はその場を去ってしまった。こちらを一瞥することもなかった。  フレインが腰に手を当てて小首をかしげる。 「ふむ……相変わらずだね、彼は。私以上に自己中だ」 「おーい、フレイン。あっちにいっぱい獲物がかかってたぞ」  ランキング五位のジークもやってきた。あともう一人、目元に赤っぽいシャドウを施した人物もいる。見たことがないが、誰だろう。  彼がやや大袈裟な仕草で額に手を当てた。 「100メートル毎にイノシシの罠が仕掛けられておりました。それにしても、なんと無粋な罠なんでしょう! わたくしユーベル、熱が出て来そうです」 「熱でもなんでもいいけど、あれ全部運ぶの大変だぜ? 応援頼むか?」 「その方がいいかもね。私はお手伝いできないけど」  フレインはアクセルの側に寄ると、屈んで手を差し伸べてきた。 「ひどい目に遭ったね。大丈夫?」 「あ……あにう……」  兄上、と呼びそうになり、アクセルはきゅっと唇を噛んだ。そして視線を落とし、小さく言い直す。 「……いえ、フレイン様」 「え……?」 「……大丈夫です。お手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」  アクセルは胸元に手を突っ込み、白い子うさぎを取り出した。  必死に守った甲斐あって無傷だった。正面から斬られていたら自分もろとも斬殺されていたかもしれないので、少しホッとした。 「ほら……早く帰れ。もうこんなところに来るなよ?」  子うさぎはつぶらな瞳でアクセルを見つめると、そのままタタタ……と茂みに走っていってしまった。

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