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第36話

 それを満足げに見送っていたら、フレインが顎に手を当てた。 「もしやその傷は、あの子を守ってたから?」 「……いえ、俺が未熟だっただけです」  短く言い切ると、アクセルは両腕をついて身体を起こした。なんとか片足だけで立ち上がろうとしたのだが、脇腹の痛みと重心がズレているのとで上手く立ち上がることができない。 「もう……」  見かねた兄がアクセルを抱き起こし、ひょいと肩に担ぎ上げた。 「じゃ、このまま一緒に泉に行こうね」 「えっ!? い、いいです! 俺一人で行けます! 降ろしてください!」 「何言ってるの。一人で立つこともできないくせに」 「でも、あ……フレイン様にこんなこと」 「お前ね、何を遠慮しているのか知らないけど、怪我している時くらい素直に運ばれなさい。私が誰かを運ぶなんて滅多にないんだから」 「…………」  つい泣きそうになって、また強く唇を噛んだ。  ――やめてくれ、兄上……。  今優しくされたら、思いっきり甘えたくなってしまう。  兄に追いつくまでは、弟として接するのはやめようと思っていたのだ。だからあえて他人のように振る舞い、平気であるように装った。  そうでもしなければ、皆の前で兄に縋りついて号泣してしまいそうだったから……。 「お前、狩りは初めてだったっけ?」  泉に向かっている最中、フレインが話しかけてきた。アクセルは黙って頷いた。 「いきなりランゴバルトに当たって不運だったね。昔はまだよかったんだけど、ランキングが二位に落ちてからより獣じみてきたんだよ。あれはよろしくない」 「獣じみて……とは、どういう……?」 「平たく言えば、『人間らしくなくなる』ってことかな。まあ、私たちはオーディン様の戦士(エインヘリヤル)だから、もう人間じゃないんだけど」  と、フレインが小さく笑う。

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