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第38話
「っ……!」
傷口が痺れるように痛む。抉られた脇腹や千切られた左足に水が沁み込み、あまりの激痛に意識が飛びそうになった。
「く……」
溺れかかった者のように、必死に兄にしがみつく。
歯を食いしばって堪えたものの、生理的な脂汗や涙が滲み、しがみついている手に力が入った。兄の背に爪を立ててしまったが、申し訳ないと思う余裕もなかった。
「……アクセル」
こちらを抱き締めながら、フレインが優しく囁いてきた。
「我慢しなくていいよ。痛いなら思いっきり泣きなさい。その方が痛みも薄れる」
「……!?」
「大丈夫、お前の涙には慣れてるからね。ここには私しかいないし、人目を気にする必要もない」
「あ……あに、フレイン様、でも……」
「いいよ、兄上で。『フレイン様』なんて呼びにくいだろう? 少なくとも、お前にとっては」
「……っ……」
「お前が頑張っていたこと、お兄ちゃんはちゃんと知ってるよ。たった四ヶ月でよく五〇位以内に入ったものだ。本当に頑張ったね。偉い偉い」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「……兄、上……」
もうたまらなかった。いろんな感情が堰を切ったように溢れ出し、涙となってボロボロこぼれてきた。決して泣くまいと思っていたのに、どうしても嗚咽が止められなかった。
「兄上……兄上ぇ……」
「よしよし、大丈夫。お兄ちゃんはここにいるよ」
「と、いうか兄上……俺が誰か、わかってるのか……?」
「もちろんだよ。お前は私の可愛い弟、アクセルだ。なんでそんなこと聞くの?」
「だ、って……兄上、最初会った時、『誰だっけ?』って……」
「ああ、そっか……。そんなこともあったね」
ふふ、と兄が笑みをこぼす。
「もちろん、あれは嘘だよ。一目見てすぐアクセルだってわかったさ。ああ、やっと来てくれたんだなって、すごく嬉しかったんだから」
「そ……れなら、何故嘘なんか……。兄上があんなこと言うから、俺……ショックで、思わず……」
「ああ、いきなり抜刀してきたね。あれは痛快だった」
「ごまかさないでくれ……。あれのせいで俺は、初日からいきなり腕一本持って行かれたんだぞ……。本当にショックで、しばらく立ち直れなかったんだからな……」
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