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第44話
「兄上はイノシシを捌く方に行くんだよな?」
「そうだよ。細々 と料理するより、すぱすぱ肉を捌く方が性に合ってるからね」
「確かに、兄上が料理したら全部大味になりそうだ」
「やろうと思えばできるんだよ。性に合わないだけで」
「ふふ、そうか」
「おや、その顔は信じてないね? 一緒に暮らせるようになったら料理してあげるから楽しみにしてなさい」
その台詞に、不覚にもキュンとしてしまった。大好きな兄とひとつ屋根の下で暮らせる上、手料理まで振る舞ってもらえる。考えただけで甘酸っぱい気持ちが溢れてきた。
「じゃあアクセル、またランク上げ頑張って。お兄ちゃん応援してるからね」
「ああ、もちろんだ」
軽く手を振って、兄と別れた。初めての狩りで大変な目に遭ったけれど、結果的には幸せな時間を過ごせた。早く一緒に暮らせるよう、また鍛錬に励まなくては。
アクセルは「目標・ランキング七位」を心に掲げつつ、宴の厨房に足を向けた。
***
厨房で大量のシチューを作らされ、宴が始まってしばらくしたところでようやくアクセルは解放された。
大釜で具材を煮込んだため、掻き回すお玉も身の丈ほどに大きかった。ふと、魔女が毒薬を生成しているシーンを思い浮かべてしまった。
――いや、シチューは毒薬じゃないけどな。
兄のために心を込めて作った食事だ。口に合うといいが。
「ア・ク・セ・ル!」
宴の会場に行ったら、いきなり後ろから抱きつかれた。チェイニーだった。
「イノシシ、いっぱい狩ってきたんだって? お疲れさま~!」
「ああ……まあ、いろいろあったけどな」
「聞いたよー。ランゴバルト様にめちゃくちゃやられたって話。でも、結果的にはよかったじゃない。フレイン様に助けてもらえたんでしょ?」
「……そうだな」
泉でのことを思い出すと、つい笑みがこぼれてしまう。はしたないので急いで真顔に戻したが、チェイニーには呆れられてしまった。
「いいなー……。なんか妬けるわ」
「は? 何が妬けるんだ?」
「いや、こっちの話。それより、早く食事もらいに行こうよ。イノシシのシチューとヤギの蜜酒! 宴と言ったらそれがないとね」
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