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第50話
キィン、と透明な音がした。金属同士がぶつかり合い、心地よい音波が鼓膜を刺激する。頬に切り裂かれた空気が触れ、袖についていたボタンが弾け飛んだ。
本当に命懸けだ。こんな危険な舞、初めてだ。少しでも気を抜いたら斬られる。
――でも……。
兄が右に跳んだ。アクセルは左に跳んだ。兄が剣を下に逸らした。アクセルも下に逸らした。今度は二人で床を蹴って、ユーベルの懐に飛び込んだ。
「楽しいね、アクセル!」
「ああ、まったくだ!」
兄の行動がわかる。考えなくても身体が勝手に動き、呼吸すらもぴったり合っているように感じる。今までにない一体感だ。なんて気持ちいいんだろう……。
血が温まり、ぞくぞくした興奮が這い上がりかけた時、ユーベルが緩やかに回転を止めた。大きく剣を振り上げ、床に叩き付けたところで完全に動きが止まる。
「では今夜は、ここまでに致しましょう」
荒れ果てた広場の真ん中に立ち直し、紳士のような礼をしてユーベルは顔を上げた。調子が出てきたところで水を差され、アクセルは拍子抜けした。少しイラッとした。
「…………」
仕方なくボロボロになった小太刀を鞘に納める。後で修理に出さなくては。
「あなた、わたくしの舞を見るのは初めてですよね?」
ユーベルが話しかけてくる。相変わらず息一つ乱れていなかった。あれだけ激しく動き回っていたのに、そのスタミナは純粋にすごいと思う。
「初めてで致命傷を負わなかったのは、なかなかいいセンスをしていらっしゃいます。誇っていいと思いますよ」
「はあ、ありがとうございます」
「それに、お顔もとても整っていらっしゃる。身長も十分ですし、踊りをやらせたら映えそうですねぇ」
「は、はあ……」
ユーベルが指で顎を持ち上げてくる。舐めるように顔を見られて、ちょっと表情が引き攣った。
――近い……。
顔がいいと言ってくれるのは嬉しいが、あまり近くでまじまじ見られると気まずいのだが……。
「あの、ユーベル様……」
そろそろ離れてください……と目で訴えたら、ユーベルの首筋に抜き身の太刀が当てられたのが見えた。
「そのくらいにしてね、ユーベル。それ以上口説いたら斬っちゃうよ?」
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