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第51話

 兄・フレインだった。口調は穏やかだが、目の奥に殺気が(うごめ)いていた。  ――怖っ……!  優しい顔のまま平気で相手を斬ってしまう人だ。あまり怒らせたくない。  だがユーベルはさほど意に介さず、アクセルの顎から手を離した。 「ああ、フレインですか。わたくしの舞は楽しめましたか?」 「うん、とても。久しぶりに愉しめたよ」 「それはよかった。わたくしも久々に滾りましたよ」 「でもユーベル、あれは上級者向けの舞じゃないの? 初めての人には刺激が強かったんじゃないかな」 「だから途中で切り上げたではありませんか。滾りすぎて我を忘れても困りますからね」  シュルシュルと剣を巻き取り、腰に下げるユーベル。  何のことかわからず、アクセルは訝しんだ。確かに後半は楽しかったが、前半は本当に逃げ回るだけで精一杯だったのだが。  ユーベルが宴の会場を見回しながら言った。 「本日の死傷者は何人です?」  床や天井だけでなく、テーブルや椅子、食器もズタズタ、斬られた参加者が山のように重なっている。今更ながら、血の匂いが鼻に突いた。冷静になって見てみれば、かなりひどい状況だった。  フレインが興味なさげに答える。 「んー、何人だろう? わからないけど、この分だと泉や棺がいっぱいになりそうだね」 「あっ……!」  ハッとしてアクセルは慌てて周りを見た。怪我を負いながら起き上がる者もいたが、あの少年の姿はなかった。 「アクセル、どうしたの?」 「あの子は……? あの少年はどこ行った!?」 「あの子って誰?」 「いや、名前は知らないんだけど……でも、直前まで俺の隣にいて……」  守ってあげなくちゃと思っていたのに、自分のことで精一杯でとてもそんな余裕はなかった。あの格好じゃ、きっとどこかで死体になっているに違いない。  悪いことをしてしまった。捜して棺に運んでやらなくては……。  死体を一人一人確認しながら歩いていると、兄が肩に手を置いてきた。 「それ、どんな子? 私も一緒に捜してあげるよ」 「ありがとう、兄上……。ショートボブの少年だ。確か短パンを穿いていた」 「……ショートボブの短パン少年? それって……」  その時、子供らしいボーイソプラノが聞こえてきた。

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