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第52話
「ねえ。このシチュー、ヤギのお酒ととっても合うよ。アクセル、やっぱり味付け上手なんだね」
「……えっ?」
驚いてそちらに目をやる。見れば、例の少年が崩れた瓦礫の上に座って平然とシチューを味わっていた。もう片方の手にはグラスを持っており、ヤギの蜜酒をぐびぐび飲み干している。
――ええー……?
さすがに目が点になった。無事だったのはもちろんだが、掠り傷ひとつ負うことなく何事もなかったかのように食事を続行していることに度肝を抜かされた。
「無事……だったのか……」
なんとかそれだけ言うと、少年はへらっと笑った。
「あ、もしかして心配してくれた? ありがとう、アクセルは優しいね」
「あ、ああ……まあ……」
「ねえフレイン。きみの弟くん、とってもイケメンでいい人だね。ぼく気に入ったよ」
「それはよかった。これからも贔屓 にしてやってね」
隣にいた兄が苦笑する。口調からして知り合いなのは明らかだった。
「兄上……知り合いなのか?」
「あー……まあ、さすがに彼のことは知ってるかなぁ……」
人の顔と名前を覚えるのが苦手な兄が、知っている人物。それは必然的にランキング上位者に絞られる。
ということは、まさかこの少年は……。
「そう言えば、名乗るの忘れてたね」
瓦礫からぴょんと飛び降り、アクセルの前に立つ。やはり身長はアクセルの胸までしかない。どう見ても子供である。が……。
少年はニコッと笑うと小さな手を差し出して言った。
「ぼくはミュー。よろしくね、アクセル」
「ミュー!? いや、ミュー様……!? あのランキング一位の!?」
「やだな、『様』なんてつけなくていいよ。さっきみたいに普通にしてて。ほら、握手握手」
「は、はあ……」
手を握られたので握り返すしかなかったが、顔は確実に引き攣っていた。
困って兄に目をやったのだが、兄はにこやかに微笑んでいるだけで助け舟は出してくれなかった。
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