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第53話

 ――嘘だろ……?  この少年がランキング一位の戦士? あのランゴバルトより強いのか? どうも信じられない。  というか、今更ながら失礼なことを言わなかっただろうかと心配になってきた。 「あれ? アクセル、ほっぺに怪我してるね」 「え? ああ……」  指を這わせてみたら、左の頬に薄く裂けたような傷があるのがわかった。薄皮一枚程度だから、あまり気にしていなかった。  するとミューはニィッと笑い、 「じゃ、ぼくが治してあげる」  と、アクセルの顔を引き寄せ、傷口をぺろりと舐めた。 「っ……!」  反射的に振り払いそうになるのを、すんでのところで堪える。ミューは悪気なくアクセルの顔を離すと、再びニィッと笑った。 「はい、治った治った」 「あ……ありがと……」  舐められた部分を抑えつつ、どうにか礼を述べる。内心、動揺しまくっていたが、子供相手に大人気ないと思い、注意することもできなかった。  困惑して目を泳がせていると、ミューは大きな目をぱちくりさせて小首をかしげた。 「あれ、赤くなった。アクセル、もしかして照れてる?」 「なっ……! そ、そんなことは……!」 「へへへ。イケメンなのに照れ屋さんだ。可愛いね」 「ミュー……あまり大人をからかわないでくれ」 「何言ってるの。ぼくの方がずっと年上だよ。見た目はこんなだけど」 「あ……」  ……それもそうか。少なくとも、ヴァルハラにいる年数はミューの方が上である。  ――実際、何歳くらいなんだろうな……この少年……。  ヴァルハラは外見年齢と実年齢が全く違うので、見た目はあてにならない。 「じゃあ、私はそろそろ帰ろうかな」  兄の言葉が聞こえて、アクセルは我に返った。スタスタと会場を後にする兄を慌てて追いかける。 「兄上! ちょっと待ってくれ、兄上!」  ようやく追いつき、やんわりと腕を掴んだ。

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