55 / 2002

第55話

「ふふ、やっぱりお前はいくつになっても可愛いね」 「かわ……!? いや、兄上……俺これでももう二十七歳だから、可愛いっていうのはちょっと……」 「年齢なんて関係ないよ。アクセルはいくつになっても可愛い。だからいろんな人に口説かれちゃうんだろうけど」  兄が頬の傷を指で軽くなぞってきた。先程ミューに舐められた場所でもある。 「まあ、口説かれるくらいならいいんだけど、お前もかなりの美形だからなぁ。変な人には気をつけるんだよ? 男ばかりの社会で、溜まってる人もいるからね」 「いや、そんな……俺をどうこうしようなんてヤツいないだろ」 「だといいけど。お前は免疫がないから、ちょっと心配で」  ……一体何の心配をされているんだろうか。  やはり図書館でそういう勉強した方が……と思っていると、兄は両手でアクセルの顔を包み、コツンと額を当ててきた。 「じゃあね、アクセル。今日はとっても楽しかった。気をつけて帰るんだよ」 「……ああ。おやすみ、兄上。また後日」  名残惜しいが、今度こそお別れだ。アクセルは兄の姿が見えなくなるまで、その場に立って見送った。  ――一体どんな訓練なんだろうな……。  内容はわからないが、兄が見ていてくれるならどんな厳しい訓練でも耐えられる気がする。  三日後だか四日後の訓練を楽しみにしながら、アクセルも自分の家に戻った。 ***  三日後か四日後と言っていたのに、兄に声をかけられたのは一週間後だった。 「全然来てくれないから、忘れているのかと思ったじゃないか」 「あはは、ごめんね。スケジュール、ざっくりとしか把握してなくて」 「……兄上はざっくりしすぎじゃないか?」 「まあいいじゃない。訓練し損ねたわけじゃないんだし」 「そういう問題ではないと思うが……」  アクセルは自分のスケジュールはきっちり管理するタイプだから、その辺りの感覚は理解できない。昔から「お前は真面目だね」と言われていたが、単に兄が大雑把なだけなのではないかと思う。  ――まあ、兄上はこれくらいおおらかな方がいいのかな……。  そんなことを考えながら、アクセルは兄について行った。

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