56 / 2002

第56話

 兄・フレインが足を止めたのは、いつもの鍛錬場とは違うドーム型の会場だった。棺が並んでいるオーディンの館のすぐ裏手にある場所だ。  見たことはあるが、アクセルは入ったことがない。  中に入ると、そこには既にランキング五位のジーク、それと他二名の戦士が待っていた。顔見知りではないが、彼らもランキング上位者ではないかと思われる。 「今日のメンツはこれで全部かな?」 「いや、ミューがまだだ。また寝坊してんのかもしれん。あいつがいないと今回の訓練成り立たないんだけどな」 「ありゃ、そうなのか。あの子も相変わらずフリーダムだね」  ……兄上が言えた台詞じゃないけどな、と心の中でツッコむ。  ――それにしても、ミューってどういう武器を使うんだろう。  あの身長と体格だったら軽くて小回りが利く武器だと思うが、もし短剣一本でランキング一位まで上り詰めたのだとしたら、それはそれで驚きだ。 「おはよー」  一人であれこれ考えていると、のんびりしたボーイソプラノが聞こえてきた。  見れば、ミューが軽く手を振りながらこちらに歩いてきた。宴の時とさほど変わらない軽装だが、背中に死神の武器のような巨大な鎌を背負っている。  ――いや……明らかに身長超えてるだろ、あの鎌……。  一体どうやって振り回すつもりなんだ……と思っていると、ミューがぱっと顔を輝かせた。 「あ! アクセルだ! おはよー! きみも参加するんだね。よろしくー」 「あ、ああ……うん、こちらこそ」 「そっか。アクセル、強くなりたいって言ってたもんね? 訓練は厳しいかもだけど、狂戦士モード身につくといいね!」 「ありがとう……頑張るよ」  見た目とのギャップはともかく、小さい子に応援されるのは当たり前に嬉しかった。歳の離れた弟にエールを送られているような気分だ。  いや、実年齢は全然違うのかもしれないが……。 「よーし、じゃあそろそろ訓練始めるぞー」  ジークが待ち合わせ場所で声を張り上げる。集まっていた戦士たちが一斉に彼に注目した。

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