58 / 2002

第58話

 ――まずい……!  首筋に殺気を感じ、ほとんど反射的に小太刀の鞘で庇う。  刹那、鞘に鎌の刃がめり込んだ。鞘がバキバキに割れ、中に納まっていた小太刀にもわずかにヒビが入る。抜刀済みの鞘だったら、鞘もろとも首まで飛んでいただろう。 「あは、さすがアクセル。いい判断だー」 「……!」 「でも脇が甘かったりして」 「!?」  脇腹を殴られたような衝撃を感じた。拳よりも一回り大きい鉄球があばら骨に食い込んでいた。  ――鎖鉄球……!?  死神の鎌に取り付けられた鎖が、鎌と一緒に唸りを上げる。大振りの鎌の隙を埋めるために加えた付属の武器だろう。  もっとも、鉄球なしでもあの鎌は十分な脅威だが。 「やっぱりミューは強いね……っ!」  兄・フレインが容赦なくミューに斬りかかる。ガキン、と鉄同士がぶつかり合う音が響き、衝突した瞬間、細かい火花が散った。  速くて重い太刀筋を当たり前のように見切ったミューは、鎌の柄を回転させて兄を振り払った。次いで、死角から槍を振るってきたジークをいなし、鎖ごと鉄球を投擲(とうてき)して軌道を反らした。 「いえーい! ノってきたねー!」  さも楽しそうに鎌を振り回しているミュー。ランキング三位と五位の戦士を同時に相手しても、まだまだ余裕がありそうだった。  ――本物の化け物だな……!  アクセルは改めて二振りの小太刀を抜き放ち、ミューに襲いかかった。  もう遠慮している場合ではない。手加減など不要というのがよくわかった。見た目が子供だろうと関係ない。本気で挑まなければ、首を飛ばされるのはこちらの方だ。 「たあぁぁっ!」  素早く右の小太刀を振り下ろし、続けざま左の小太刀を横から振り抜く。剥き出しの足を狙ったのだが、斬りつける前に鉄球に邪魔され、鎖に巻き上げられた挙げ句、遠くに弾き飛ばされてしまった。 「あ、そっかー。血を出したらぼくの負けだったんだ」  鎌の柄を回転させたまま、ミューはのんびりと言った。 「かすり傷すら負っちゃいけないってのも、随分なハンデだねー。ならそろそろ……!」 「……!?」  ミューがカッと目を見開いた。本能的な危機を感じ、ほとんど反射的に身を引いた。

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