59 / 2002

第59話

 次の瞬間、ミューの殺気が全身からぶわっと膨れ上がった。空気を重く痺れさせ、鎌を振り回して一声叫ぶ。 「ハァッ!」  振り下ろした鎌が地面を叩き割った。その衝撃で地面に太いヒビが入り、足下がぱっくり割れてしまう。 「うわっ!」  慌ててそこから飛び退き、間合いの外に避難する。だが、ミューが地面から鎌を引き抜きがてら横に振り払った途端、刃のように鋭い空気が身を直撃してきた。 「くっ……!」  上着やズボンにまんべんなく傷をつけられ、アクセルは歯を食い縛った。距離を取っていたので威力は弱まっていたが、至近距離で受けていたら斬り刻まれていてもおかしくなかった。  兄・フレインが感心したように微笑む。 「さすがミュー。空気ですら武器にしちゃうなんて、やるなぁ」 「感心してる場合じゃないけどなっ! 狂戦士(バーサーカー)になられたら生身のままじゃ適わないぞ」 「そうだね、じゃあ私たちも……」  ジークと目配せし、改めて兄が武器を構え直す。  次の瞬間、二人の雰囲気も一変した。 「ギェアァァァア!」 「グォオォォォォ!」  獣のような咆哮(ほうこう)を上げ、全身から殺気が膨れ上がった。(みなぎ)る闘志が空気を震わせ、こちらの肌まで痺れそうになる。 「では、いこうか」 「よっしゃ! オレ達は簡単にはやられないぞ!」  目にも留まらない速さで、ミューに斬りかかっていく二人。 「やったね! 盛り上がってきたよー!」  ミューはそれを楽しそうに受け止め、鎌と一緒に鉄球をも勢いよく振り回した。金属同士がぶつかり合って火花が飛び散り、三人のオーラが衝撃波となって周囲の小石を弾き飛ばす。  普通の戦士とは比べ物にならない。腕力、脚力、瞬発力……等々、何もかもが圧倒的だった。纏っているオーラからして、下位ランカーとは全然違った。

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