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第61話(フレイン視点)※
「中止だ、中止ー! ルール無視されちゃ訓練にならん」
ジークが声を張り上げる。アクセルの間合いから遠ざかり、攻撃を受けない場所で更に言った。
「こうなったら殺して止めるしかないだろうな。誰が止めるよ?」
「あ、じゃあぼくが殺して来てあげる。まだアクセルを斬ったことないからさー」
ミューが死神の鎌を振り上げたのだが、フレインはあえてそれを遮った。
「待った。アクセルは私が止めるよ」
「んー? やっぱり弟を殺すのは自分がいい?」
「いやいや、殺しちゃったらあの子は何も学習せずに終わっちゃうよ。ちゃんと自分の状態を自覚させないと」
「? いいけど、どうやるの?」
フレインは小さく微笑んで「狂戦士モード」を解除し、太刀を鞘に納めた。武器をしまった自分を見て、ミューとジークが目を丸くした。
「二人は、先に首なし死体を棺に入れてきて。あと、くれぐれも手出しはしないでね」
「おい、フレイン……」
困惑しているジークを余所に、フレインはアクセルの間合いに踏み込んだ。武器は構えなかった。
「さあ、おいでアクセル」
敵を見つけたとばかりに、弟がこちらに刃を向けてきた。
「シャアァァァッ!」
獣の鳴き声だな、と思った。醜いとは言わないが、こんな姿の弟はできれば見たくなかった。
アクセルは普段真面目な分、一度羽目を外すとブレーキが利かなくなってしまう。一週間前の狩りで「気をつけなさい」と注意したはずなのだが、それすらも忘れてしまっているみたいだ。
――まったく、手のかかる弟だね。
そこがまた可愛いんだけど……と思いつつ、フレインは真っ直ぐ弟を見つめた。
二振りの小太刀が迫ってきた。恐くはなかった。自分にとって最も恐ろしいのは、斬られることでも殺されることでもない。
わかるよね、アクセル……?
「ぐっ……!」
胸の中心を貫かれ、フレインは衝撃に仰け反った。鉄臭い味が喉元をせり上がり、唇から迸って周囲に飛び散る。
小太刀が引き抜かれていく気配を感じ、両手でその柄を掴んだ。弟は少し驚いたようだった。
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