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第62話(フレイン~アクセル視点)※
「アクセル……」
小太刀を押さえたまま、フレインは弟の肩にもたれかかった。血まみれの唇を首筋に這わせ、緋色のキスマークを押しつける。
「あに、うえ……?」
弟の惚けた声が耳元で聞こえた。
***
確実な手応えを感じ、アクセルは小太刀を引き抜こうとした。だが抜けなかった。刺された相手が両手で柄を握ってきたのだ。
なんだコイツは。その手を離せ。
「アクセル……」
自分の肩に、相手の重みがのしかかってきた。濃厚な血の臭いと共に、甘い髪の香りがふわりと漂ってきた。
「……?」
この声、この温もり、この香りも……全部知っている。首筋にぬるりとした唇を押し当てられ、少しずつ視界が晴れてきた。
これは……この人は……。
「あに、うえ……?」
おかしい。何故俺は兄上と密着しているんだ? ミューを斬るために訓練してたんじゃなかったのか? 念願の狂戦士モードになれたはずなのに、俺は一体何をして……?
「……目が覚めた?」
「!?」
兄の囁きが聞こえて、ハッと息を呑む。頭が冷静になっていくのと同時に、自分のやったことがだんだんハッキリしていった。
俺は……俺は、まさか兄上を……?
「あっ、あ……っ! あああああ!」
アクセルは悲鳴を上げた。半ばパニックになって小太刀を引き抜いてしまい、夥しい量の返り血を全身に浴びてしまう。
兄の身体が傾き、どさっと仰向けに倒れた。地面に赤黒い血溜まりが広がっていき、端整な顔が青白くなっていった。
「あ……兄上……兄上……っ!」
両膝が折れ、兄のすぐ隣に頽 れた。自分への嫌悪と絶望に涙があふれ、ぼろぼろ頬を伝い落ちる。
「兄上、ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
フレインがよろよろと片手を伸ばしてきた。アクセルは両手でその手を握り締めた。かつて兄が息を引き取ったシチュエーションとよく似ていて、それでまた胸が痛くなった。
――俺はなんてことを……。
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