62 / 2002

第62話(フレイン~アクセル視点)※

「アクセル……」  小太刀を押さえたまま、フレインは弟の肩にもたれかかった。血まみれの唇を首筋に這わせ、緋色のキスマークを押しつける。 「あに、うえ……?」  弟の惚けた声が耳元で聞こえた。 ***  確実な手応えを感じ、アクセルは小太刀を引き抜こうとした。だが抜けなかった。刺された相手が両手で柄を握ってきたのだ。  なんだコイツは。その手を離せ。 「アクセル……」  自分の肩に、相手の重みがのしかかってきた。濃厚な血の臭いと共に、甘い髪の香りがふわりと漂ってきた。 「……?」  この声、この温もり、この香りも……全部知っている。首筋にぬるりとした唇を押し当てられ、少しずつ視界が晴れてきた。  これは……この人は……。 「あに、うえ……?」  おかしい。何故俺は兄上と密着しているんだ? ミューを斬るために訓練してたんじゃなかったのか? 念願の狂戦士モードになれたはずなのに、俺は一体何をして……? 「……目が覚めた?」 「!?」  兄の囁きが聞こえて、ハッと息を呑む。頭が冷静になっていくのと同時に、自分のやったことがだんだんハッキリしていった。  俺は……俺は、まさか兄上を……? 「あっ、あ……っ! あああああ!」  アクセルは悲鳴を上げた。半ばパニックになって小太刀を引き抜いてしまい、夥しい量の返り血を全身に浴びてしまう。  兄の身体が傾き、どさっと仰向けに倒れた。地面に赤黒い血溜まりが広がっていき、端整な顔が青白くなっていった。 「あ……兄上……兄上……っ!」  両膝が折れ、兄のすぐ隣に(くずお)れた。自分への嫌悪と絶望に涙があふれ、ぼろぼろ頬を伝い落ちる。 「兄上、ごめんなさい……本当にごめんなさい……」  フレインがよろよろと片手を伸ばしてきた。アクセルは両手でその手を握り締めた。かつて兄が息を引き取ったシチュエーションとよく似ていて、それでまた胸が痛くなった。  ――俺はなんてことを……。

ともだちにシェアしよう!