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第63話
声を震わせて泣いていると、兄のかすれた声が小さく響いた。
「お前が、獣にならなくて、よかったよ……」
「……!」
「あとで……棺に、運んで……ね……」
こくこくと激しく頷く。飛び散った涙がパラパラと兄の顔に降り注いだ。
兄は満足げに微笑み、全身の力を抜いた。
「兄上……」
もう一度手を強く握り締めた後、アクセルは息絶えた兄を背負った。
その身体がやけに重く感じた。この重さを、自分は今後永遠に忘れられないに違いない……。
「え、アクセル? しかもフレイン様まで!?」
訓練場を出てオーディンの館に向かったら、チェイニーがびっくりして駆け寄ってきた。ちょうど棺の管理当番だったようだ。
アクセルは端的に聞いた。
「空いている棺はどこだ? なるべく回復の早いものがいいんだが」
「えーと、じゃあXLサイズにする? 普通のMサイズより回復早いと思うよ」
「なら、それで頼む」
チェイニーに案内され、館の奥に並んでいる棺に兄を寝かせた。
ヴァルハラにはいろいろな体格の戦士がいるので、棺もあらゆるサイズが揃っている。XLサイズは本来ランゴバルトのような大男が入るような棺だから、兄が入ると周りがスカスカだった。自分が一緒に入っても余裕がありそうだ。
黙って棺の蓋を閉めたアクセルに、チェイニーが話しかけてくる。
「あのさ、これってもしかしてアクセルがやったの?」
「……ああ」
「え、すごいじゃん! あのフレイン様に勝ったってことだよな?」
「…………」
「あー……っと、そういう感じじゃないのか。ごめん、オレ仕事に戻るよ」
暗い雰囲気を察したのか、チェイニーは素早く席を外してくれた。よかった。今は誰かと話す気分じゃない。
「…………」
アクセルは館の前の階段に座り込み、抱えた膝に頭を乗せた。
兄はどのくらいで復活するだろう。せめて早く回復して欲しい。そして早く謝りたい。
もっとも、どんな顔をして兄に対面すればいいのかわからないのだが……。
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